砂

主戦場の砂のレビュー・感想・評価

主戦場(2018年製作の映画)
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ここまで「いま観るべき映画」といえる作品は久々に観た。

まず映画は編集者の主観があり、ことドキュメンタリーという形式は主張を織り混ぜないことは不可能である。
そして私は中道であると思っているので、作品の政治スタンスについてはそういう目でみていた。それでも右派の主張があまりにひどいもので、論理が破綻しているのみならずマチズムによる倫理観の酷さも強く印象に残る。
かといって左派を全面肯定するものでなく、ある種の詭弁も一部ある。このあたりは論者の問題が大きいとは思う。

映画の主題は慰安婦問題であるが、当然その背景も理解しなくてはならない。そこで現代日本の抱える最大の構造的問題に触れるわけだが、ここでは本当にゾッとするような日本の権力構造が明らかにされる。
これらの編集は特に恣意的な面も見られようが、いずれもすべてエビデンスに基づいたものであり、我々はただの傍観者ではいられない。

本作ははっきり言えば左によっており、かつ編集がうまいために引き込まれる部分はかなりある。しかしそういった操作性を考慮しても、日本の歪みを直視し、対話による共有をして真剣に一考するに値する題材である。

タイトルの通りこの問題は戦場であり、権力や思想の対決という意味ではいま香港で起きている問題との構造的な相似点も見える。論理が違い、多面的な議論がまるで不可能な、そもそも成立不可能な状況。パワーゲームが事実の追及すらも歪めてしまう。
作品内外で明らかにされるのは、こと日本においてはまっとうな議論ができない、という事実だ。しかし映画は議論の種にはなりうる。きちんと育てていくべきなのだ。

現代の日本に限らず世界情勢においてもそうだが、相当暗い未来は覚悟しなくてはならないのかもしれない。
我々がすべきことは、きちんと情報を吟味検証し、対抗意見も受け入れ対話し、そして何より「記録を残すこと」だろう。
これはぜひ多くの、政治や社会情勢に無関心な人にこそみてほしい。
砂