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ミッドサマーの綯綯のレビュー・感想・評価

ミッドサマー(2019年製作の映画)
3.5









「彼らなりの、ちょっとムリな形の愛情」












きれいだけど不気味ってみんな言うからもっと奥ゆかしいのかと思ったら、全然。ポルノくらい直接的なヒューマンホラー。

美しさの皮をかぶった変態映画。

可憐なデザイン、緻密なカメラワーク。明確に織り込まれた不協和音と異常描写。絵画みたいだね。

花の道、祝福。

華やかさと超現実性についてはネトフリSF作品「アナイアレーション」みたいなところがある。割とバッド入ったまま不思議の国のアリスみたらこうなりそうみたいな筋書き。ラスト30分は隠すつもりなし。

おばちゃんが腰押してセックス手伝ってくれるのはさすがに笑ったけど、老婆の裸を描くのって見たいものを見せるエンタメではなかなか扱えないものがある。

死は救済であり他者は自己。死刑制度とか相互扶助とか、社会的理由のある殺しとセックス。小さなコミューンは感情や痛み、死生観すら共有する家族共同体になった。
(これは主人公が狂乱のなかでふいに感じる肉親の死と家族愛の欠乏あたりに繋がるぽよ)



じゃあそんな彼らはイカれたやつらで、ミッドサマーとは「ヤバい村での不思議系バッドエンドホラー」なのか?というと、構造的にそうは言い切れない。

彼らにとって主人公へのもてなしは真心からくる行為なのに、どこかムリなタイプの愛情を受けたときみたいな苦笑がある。オタクくんの握手とか、千と千尋の汚いシーンとか。渡す側は純な気持ちだというのに、受け取る側は顔を引つらせている。こんなヒドい事はないけど僕でもそうする。
然るに、ミッドサマーの薄気味悪さとは、すなわち僕らの心に巣食った無碍な利己主義の現れなんだ。

それ自体について、彼らの行為が必要かつ理解してあげるべきものだと思えば何か筋通ってそうだけど、これを共感するのは致命的。外界からはとても理解できなさそうな、共感してしまうとこっちの倫理観が色あせてしまいそうな恐怖がまたよい。ダンスステキ〜とかパタパタかわいい〜という感情はすでに敷居に足をかけている証拠。端々に美しいよな〜って感じるところがすでにドープの片鱗を見せている。

「不気味」「カオス」と評価されるのは、みんなが理解なんてしたくないような傾いた愛情への無意識的なリアクションなんだ。

だけど家族を失った主人公にとって、コミューンは自らを受け入れてくれる共同体で。心の付け根がゆるゆるの彼氏や倫理のタガがばかになってる友達、彼らを焚き上げてでさえも余裕でおつりが来る存在、まぎれもなく家族なのだ。(彼らはオズの魔法使いだってね)

「コイツらまじでやばくない?でもコレって本当はラブじゃない?」共感、狂乱、家族と愛のあり方、倫理の問いかけが一巡二巡する、そんなはぴはぴ闇落ち映画。

めでたしめでたし♡
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