アタフ

ミッドサマーのアタフのレビュー・感想・評価

ミッドサマー(2019年製作の映画)
4.5
『ヘレディタリー/継承』を見て衝撃を受けてから、この作品の公開を今か今かと待ち望んでいました。やはりと言うべきか流石はアリ・アスター監督、他のホラー映画とは一線を画す圧巻のホラー映画でした。

冒頭からショッキングな展開でこの物語は幕を上げる、両親を及び妹をある"悲劇"によって失ったショックにより精神を病んでしまったダニー。気分転換になるかと、彼氏に誘われたスウェーデン旅行に同行することに。

この映画は精神に問題を抱えた主人公(この場合パニック障害?)がどのようにそれを寛解させるかのプロセスを描いた、一種の鬱映画だと感じました。この場合の鬱映画とは陰鬱な展開の映画(『ミスト』や『ダンサー・インザ・ダーク』)などのことではなく、主人公が鬱状態に陥る映画(『CURE』や『アンチ・クライスト』)と近いのではないかと感じます。これについては、別冊映画秘宝「鬱な映画」を参照しております。特に『アンチ・クライスト』とは似通った点も多い、冒頭の雪が降りしきる中での悲劇、大自然の中でのヒーリング、などなど、まあその後の展開は全然違いますけどね。

スウェーデンに到着し夏至祭に参加してからは、アリアスター監督のお得意の超絶不気味な展開の連続。快晴の中での明るいホラー、怖くないかと思いきやとんでもなく怖い!!
この怖さは、"生活の中に当然のように異常さが紛れ込んでいるという"ということに対しての恐怖なのだと思う。この映画の主人公達、又は映画を見ている我々にとってはそれがどんなに異常なことであったとしても、そこに住む人々には普通のこと。それをこんなにもありありと描かれるとこんなにも怖いのか!!

前作『ヘレディタリー継承』でも思ったが、アリアスター監督のホラー演出は他のホラー映画とは確実に違います。不意のジャンプカットや、サブリミナル的に挟み込まれる映像(ショッキングなシーンが多い)、ホラー映画を見慣れている人ほど、この映画のホラー演出の異質さに気が付くと思う。登場人物の慟哭や絶叫シーンが尋常じゃないほど真に迫っているのも共通していますね、前作のアニーの死体を発見した時の母の絶叫は今でもトラウマです。

また、この監督は人体を破壊することにも、ましてそれをハッキリとスクリーンに映すことにも全くの躊躇がない。しかもその人体の一部を人形にしたりしますからね、前作でもラストでとんでもないことをしていましたし、今作でも当たり前のように人体をバラバラにしていますよ、それでまた悪趣味なものを作ったりしてね…

ボルガの村の異常さをおぞましい程の恐怖演出で描いておきながら、主題としてはダニーがどのようにして"癒されるか"であると思う。両親の死によって精神を病んでしまったダニーに対し、本来であれば恋人であるクリスチャンが彼女の助けになるべきであるが、彼は完全にめんどくさくなっており、はっきり言って助けにならない。そんな中、ダニーがパニック症状を起こしたときにボルガ村の女性たちが共に泣き叫ぶシーンがあります。これは一見笑ってしまうシーンですが、ダニーにとってはある種のセラピーのようなものなのかなと感じます。分かってくれないクリスチャンに対して、ボルガ村の人たちは共感し彼女と同化して悲しみ泣き叫ぶ、彼女のような人にとって痛みを分かち合ってくれる人が必要だったのでしょう。私も過去に不安障害のような状態になったことがあるのですが、その不安や恐怖に対して心の底から共感してくれる人がいれば、助けになったのではないかと感じます。

そんな状態の中クライマックスを迎えるわけですが…
ラストについてはネタバレになるのでコメント欄に記載します。

※※※※※※※※※※※※※※※

コメント欄に記載

※※※※※※※※※※※※※※※

いやはや『ヘレディタリー継承』に続き、アリアスター発のどんでもないホラー映画が登場してしまいました。というより、今作はホラー映画と言っていいのかもよくわかりませんが、とにかく桁違いの傑作だと感じます。『ヘレディタリー継承』については凄まじいホラー映画だと感じる半面、もう二度と見たくないと思っていますが、今作『ミッドサマー』はもう一度、いや二、三度見たいという衝動にかられました。細かい描写や画面の隅々にまで散りばめられた伏線を確認したいですし、あの異様な世界感にもう一度浸りたいです!!
アタフ

アタフ