Oto

ミッドサマーのOtoのレビュー・感想・評価

ミッドサマー(2019年製作の映画)
3.7
咀嚼しきれなくて何を表現したいんだろう...ってずっと考えながら観ていたけど、監督自身のトラウマをエンタメとして外部化することで浄化しているみたい。序盤の「重荷になっているかも」からの「謝って欲しいわけじゃない」はダニーの抱える問題がリアルすぎて自分の事のように辛くなったけど、まさに監督自身の体験を投影しているらしく、その意味ではスウェーデン行くまでのパートが一番刺さって悲劇の威力を知った。

なんでこんなに個人的で極端な映画が世界で大ヒットするんだろうと不思議になったんだけど、そういえばスコセッシも「個人的であるほど創造的」って言ってたな。。好きなことを追求して良いんだという勇気をもらえる。でもその上で、「物理的に明るいホラー」「ホラーとコメディの境界」とか新しいことにもちゃんとチャレンジしている作品だったので納得はできる。死んだ家族と飛び降りた老人たちが入れ替わるカットはすごくかっこよくて好き。

全体的に表現が先行している映画という印象を受けたけど、テーマから遠い表現を選択するというのはかなり大切かもと学んだ。自分の問題や関心をそのまま伝えたところで他人は興味持ってくれない。地獄の濡れ場は周りが笑いを押し殺していて最高だったけど、「何を見せられてんの?」と思わせるようなものを作りたいと。上下反転したり面白いカメラワークが連続したり、人体に自然(動花、熊、枝)を合体させたり、控えめなタイトルクレジットだったり、新しい映像が多くて終始ドキドキさせられる。姥捨山やブラッドイーグルがある程度史実に基づいていると知って「事実は小説より奇なり」だなぁ。春夏秋冬に例えると27歳がミッドサマー?。
個人的には音の使い方が巧みだなぁと感じる部分も多くて、嗚咽の音に近づいて行って緊張感が増したり、電話やエンジンの音で空間を移動するトランジションだったり、終盤の合唱だったり、映画の半分は聴覚であると再認識した。

「自己を完全に失って自由を得るのは恐ろしくもあり美しくもある」というテーマ。前半は理解できないものに対する恐怖を徹底して描いていて、崖の飛び降りなどはクリスチャンと一緒になって驚いていたけど、後半はメイクイーンなどを通して共同体に吸い込まれていき、集団として感情が一体化した没個性が進む。
果たしてこれはハッピーエンドなのかバッドエンドなのか。同調圧力への警笛と、他人ならではの幸福を否定しない多様性の尊重が両立した恐ろしい笑顔に見えた。いや、でも現実でよく感じる「それは本当にあなたの幸せ?」っていう違和感を煮詰めたものがこれなのかも。見栄えだけ綺麗なディズニーランドに近い世界。

場違いな人々の面白さとそれを利用する集団という対立構図は『Get Out』に近いものを感じてたんだけど、伏線が丁寧すぎたのか、「裏切り」がほとんどなかったのが自分が感じた物足りなさの正体かもしれない。割り切れないという意味では好きなジャンルなんだけど、韓国ノワールやリンチにあるような意外性がもう少し欲しかった。陰毛混入はもしかして仲間の死体?とか疑ったし、仲間の暴走を責められると思いきや性交を許されるというミスリードは機能していたと思うけど、閉ざされた村である分、仲間が消えていく過程は悪役の選択肢が他になかったから予想通りの展開だった。ウィル・ポールターの使い方は好き。
説明されてない要素もたくさんあるので考察のしがいがありそう、近親相姦、睡眠薬…。オースティン・パワーズは偽の優しさの象徴って解説されてたな。

(解説を読み漁ってるけど世の中には頭の良い人が沢山いるんやな…自信がなくなってくる)
90年周期がそもそも嘘じゃないかという考察が面白い。
https://twitter.com/ichibujoujou/status/1231534813414182912?s=21

美術史を反映した深い考察。「「変わっててヤバいから好き」という感覚は、おかしくはありませんが、その中に他者を見下す感情があるかもしれないということを認識しておくのは大事なことではないかと思っています」
https://note.com/sigure4444/n/ned6c9565ead5

ホラーとしていかにリアルか。
https://note.com/em_303_amen/n/n350e68786468
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