映画ネズミ

ミッドサマーの映画ネズミのレビュー・感想・評価

ミッドサマー(2019年製作の映画)
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向いている人:
①トラウマ映画、胸くそ映画と言われる映画が好きな人
②ラース・フォン・トリアーの映画が好きな人
③『ヘレディタリー/継承』にハマった人

 現在大注目のアリ・アスター監督。その最新作『ミッドサマー』が1か月間だけレンタルされていることを知り、劇場で一度見た者として、正直な感想をレビューします。最凶に「気持ち悪い」映画でした……。

 主人公ダニーは、妹と両親が凄惨な自殺を遂げたことで精神のバランスを崩す。ダニーの恋人クリスチャンは、正直なところダニーの存在が重荷だった。ある日、クリスチャンが友人とスウェーデン旅行の計画を立てていると、ダニーが「私も行きたい」と言い出す。行き先は、クリスチャンの友人の出身地・ホルガ村。そこで90年に一度開かれる「夏至祭」が行われるというのだ。夏は日が沈まない白夜となるホルガ村で行われる祭り。しかし、次第にその祭りの様子がおかしくなっていき、ホルガ村の本当の姿が明らかになる……。

 私がホラー苦手なのは皆さんご存じのとおり(?)ですが、私の近くにはホラー大好きな友達が多く、アリ・アスター監督の長編2作(ヘレディタリーと本作)を両方見る羽目になりました。

 前回の『ヘレディタリー/継承』は「家族という地獄」を描いていましたが、今回は、「恋愛関係の破壊的な終わり」を描いています。……というのは監督自身が語るモチーフのお話です。

 全体的なテイストは、「夜の場面がないサイコホラー」です。

 こちらが常識と考えていることが、ホルガ村では通用しない。「郷に入っては郷に従え」といいますが、そう簡単じゃないですよね。

 とにかくこの映画に言えるのは、すべてが「気持ち悪い」!!

 冒頭の自殺現場。ホルガ村で出てくる文様。ルーン文字。石板。食事用のテーブルの形。頭巾。そして人の顔。すべての形が気持ち悪いです。

 映画の完成度や知名度では比べ物になりませんが、「形の気持ち悪さ」という意味では、スタンリー・キューブリックの『シャイニング』を思い出しました。ルーン文字とか、いくつか出てくる絵とか、その他のモチーフなど、掘り下げがいのあるところも、シャイニングに似ています。

 普段は立ち入らないような奥地で現地の因習に触れる、という映画としては、最近では『グリーン・インフェルノ』というイーライ・ロスの映画がありましたが、あれよりももう少し文明化されています。どちらかというと、イーライ・ロスがプロデュースした実録POVホラー『サクラメント/死の楽園』の方が近いですね。『サクラメント』も気持ち悪い映画です。

 勧めてくれた親友よ、ありがとな!!(怒)

 そして、『ヘレディタリー』にもあったアリ・アスターの特徴、人間関係の希薄さ、気持ち悪さが前面に出ています。①ダニーとクリスチャンの息苦しい関係、②ダニーと家族の断絶、③クリスチャンと男友達の関係の薄っぺらさ。

 出演陣もすごいですね……。フローレンス・ピューとジャック・レイナーのカップルもいいし、『デトロイト』や『ブラック・ミラー:バンダースナッチ』にも出ていたウィル・ポールターも、今回は超軽い役で、ほかの映画とはテイストが違ってましたね。下ネタしか言わない役で、むしろこの救いのない映画の中で唯一マシな部分でした。

 いわゆるショックシーンは少ないタイプの映画です。中盤と終盤に1つずつくらいです。中盤のそれが何しろ強烈。黒沢清監督の『回路』を思い出しました。

 とにかく、『ヘレディタリー』といい、本作といい、アリ・アスター監督の人生が心配になりました(余計なお世話ですが)。この方は、これまで家族や恋人からどんなひどい目に遭ってきたのでしょう?? 強烈な人間不信がフィルムに焼き付いています。

 2010年代のホラー映画の中で押さえるべき一本なのは間違いないですが、もう勘弁してください。アリ・アスター監督には、「オースティン・パワーズ」みたいな映画を撮ってほしい。

 ということで、『かもめ食堂』とも『ドラゴン・タトゥーの女』とも一味違うスウェーデンの姿。ホラー映画が好きな方以外には、全くおススメできません……。とにかくシンドい映画でした。

 同じホラー映画でも、適度にユーモアも入っていて、まだ救いがあるので、ジョーダン・ピール作品や、「ハッピー・デス・デイ」シリーズのほうをおススメしたいです……。
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