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ミッドサマーのymdのレビュー・感想・評価

ミッドサマー(2019年製作の映画)
4.7
ついに観た。口コミがやたら喧伝されていたのでさぞトンデモ映画なのだと身構えての鑑賞だったのだけど、いや、その期待を裏切らなかった。

苛烈すぎるクレイジージャーニーというか、一種のモンド映画なのだけど、そのジャンルモノとしての面白さを維持しつつもしっかりエンタメもしているからこそ、こんな常軌を逸した映画がここまでの盛り上がりを見せたのだろう。

娯楽としてしっかりと面白い、というのがまずは素晴らしい。

まあなんといってもその数々のゴア描写・生理的嫌悪描写のインパクトがまず目に飛び込んでくる。

「そこそんなに見せなくていいよ」っていうシーンを無邪気に嬉々として見せるその悪趣味っぷりと、異国・異教ゆえの「通じない・分かり合えない」恐ろしさを全編を通して鑑賞者に突き付けてくる。

現代社会では悪とされていることをそうとは露も思わずに神聖なるものとして嬉々として執り行う人々の圧倒的な不通感・隔絶感の怖さと言ったらない。

さらにそこに畳みかけるようなドラッグによるトリップのヒプノティックなシーンもサイケデリックで非常に気持ち悪い。不快のフルコースである。

ただし、ただのアトラクションムービーではなく、観終えると、実は細かい描写の数々が示唆的で伏線となっていることに気づくという、文学的な奥ゆかしさもあったりと、「もう観たくないのにまた観たくなる」意地悪さを持っている。

アリ・アスターは今作を自身の失恋体験に基づいて作っているというが、失恋体験のアウトプットがこれかよと驚愕するとともに、一方では今作はたしかにひとりの人間の不信・絶望からの解放を描いているという意味では理解できる。

その意味で今作はハッピーエンドと呼べるかもしれないし、歪んではいるがカタルシスを得ているとも言えるかもしれない。

アートとエンタメの垣根を超えて、唯一無二の映像世界を見せつけるその圧倒的な作家性にひれ伏した。好き嫌いの次元を超越して只凄いと思わされる映画に久々に出会った。
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