回想シーンでご飯3杯いける

ベスト・オブ・エネミーズ ~価値ある闘い~の回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

4.3
人と人が出会う事で、心が変わり、社会が変わっていく映画が好きだ。それはステレオタイプやテンプレ人物描写とは対極にあるもので、丁寧かつ巧みな脚本や演技が揃って実現する。だから、才能と努力と人材の全てが必要で、正に映画の総合力が問われる表現なのだと思う。

本作は白人至上主義団体KKKの幹部と、公民権運動に従事する黒人女性という、正反対の立場にある2人が、半ば強制的に討論の共同議長に任命されたことをきっかけに、思いがけない友情を築いていく様子を描いている。

当初はまともに言葉さえ交わさなかった2人が、互いの立場や素顔を知る一方で、同じ政治思想を持つ仲間の行動を疑問視する視野を育み、この2人ならではの関係を築いていく様子を丁寧に描く脚本がとても秀逸だ。

KKK幹部を演じるサム・ロックウェルの演技も素晴らしい。「スリー・ビルボード」でも差別主義者が心変わりしていく様子を好演していたが、本作はほぼ主役扱いなので、その巧みな演技力を存分に楽しむ事が出来る。

一応、実話ベースの作品ではあるが、変な言い方をすると、これが実話で無くても十分に面白い映画だと思う。事実を脚色していると思われる部分も散見されるものの、それを嫌味と感じさせない、良い意味で手作り感溢れる佳作である。「人の心が変わる」系の元祖とも言える「十二人の怒れる男」を思い起こさせる部分もある。