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君の誕生日のslowのネタバレレビュー・内容・結末

君の誕生日(2018年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

これは核となる出来事を伏せておいた方が、家族に突然訪れた悲しみの深さや、埋められなくなった穴の大きさを、ある意味追体験に近い形で観ることができただろうし、その心情に寄り添えたのではと思う。そういう映画はいくつか観たことがあって、個人的にはあり派(なし派という人も多いので)。それでも勘のいい人なら30分も経った頃には気が付くだろうか。この家族の日常を痛ましいものに変えた、嘆かわしい大事故。多くの救えたはずの命が人為的なミスが重なり救えなかったこと。これは例の橋の崩落事故も思い出してしまう。
夫婦を演じたチョン・ドヨンとソル・ギョング。この2人の何か憑依でもしたかのような演技合戦には感情移入を禁じ得なかったし(半ば強制的よね)、娘役の子もこんな素朴な子久々に見たなって感じで、それがとても良かった。これは泣かせに来ているとわかっていても泣いてしまう。やっぱり夫婦それぞれにある溜めて溜めての泣きのシーンは圧巻(反則)だったよ。
スンナムが誕生日会を避けていたのは、息子の死と向き合うことが怖かったのと、そうすることで整理できてしまう(終わってしまう)と思ったからかもしれない。だから、娘と誕生日は祝っても、誕生日会(お別れ会)は断っていたのかなと思う。しかし、実際に会を開いてみて、悲しみに暮れ続けた心に、息子の友達や彼の周囲にいた人たちの思い出が染み渡っていくのをスンナムは感じたことだろう。彼女がそこで見せた笑顔は、それまでの苦しみから彼女自身を少しずつ癒していってくれるであろうことを予感させる穏やかなものだった。そして、感情を押し殺さなければやっていられなかったのは、ジョンイルも同じだったのだろう。この何年間、生きた心地がしなかったのは、スンナムだけではない。やはり『はちどり』同様、ここでも男が決壊する瞬間を目撃することとなった。事実を受け止めることも、受け入れることも、容易ではないけれど、そのために泣くという文化が韓国にはあるのかもしれないなと、思わされる作品だった。
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