Tラモーン

君の誕生日のTラモーンのレビュー・感想・評価

君の誕生日(2018年製作の映画)
4.5
わけわからんくらい泣いた。

皆さんあけましておめでとうございます。
絶対ツラいと分かってはいたけどドヨン姐さんの魂の演技を受け止めるべく、2022年1発目のレビューは『君の誕生日』を。


海外から韓国へと帰ってきたジョンイル(ソル・ギョング)。妻と子が住んでいる家を訪ねるも誰も迎え入れてくれない。家の中では妻スンナム(チョン・ドヨン)と娘のイェソル(キム・ボミン)がインターホンで彼の顔を確認するものの居留守を使っていた。
2人にはスホという高校生の息子がいたが、あのセウォル号沈没事件で彼は亡くなっていたのだ。その日海外にいてやむを得ない事情で長い間帰国できなかったジョンイルと、残された家族の間には深い溝ができていた。

多くを説明し過ぎず、過剰にドラマチックに演出することもなく、BGMもほぼ無い淡々としたストーリーテリングがとてもよかった。
帰国してなんとかスンナムに寄り添いたいジョンイル。ジョンイルが悪いわけではないと理解しつつも、辛い時に近くに居られなかった彼を許せないスンナム。大変な苦しみと悲しみを抱えながらも、生活していかなければならない日常の描き方がリアル。

愛する息子を失いながら、幼い娘を抱えて生きてきたスンナムを演じたチョン・ドヨンの演技が圧巻だった。
生活のためスーパーで働きながら子育てをし、日々に追われている。息子の死を受け入れたくないという思いからか、遺族団体とも距離を置いている。そして、自分たちの生活を困窮させたうえ、息子の死後、時間が経って帰国した夫を受け入れることができない。
孤独と悲しみに押し潰され、心が壊れてしまった女性そのものを見ているような辛さだった。イライラして娘にキツく当たってしまうシーンの苦しさ。愛する息子の幻想に囚われ、現実を受け入れられずに泣き声をあげるシーンは胸が張り裂けそうだった。あんなに役に入り込んで長尺で泣いたらチョン・ドヨン本人の心まで壊れないかと心配になるくらい。
そしてジョンイルへの複雑な思いと徐々に解けていく心境の演技には感服する。おこげ粥を食べてるだけであんなに心の機微を表現できる役者がいるだろうか。

対するソル・ギョングの静かな演技も素晴らしかった。家族が辛い時一緒に居られなかった後悔、迷惑をかけてしまった後悔。取り戻したくても戻れない時間の流れ。心は誰よりも妻に寄り添いたいのに、届かないもどかしさ。家族の思い出の場所へ釣りに出かけるシーンの回想が切ない。

ジョンイルとスンナムを繋ぐ役割を果たしてくれたイェソルちゃんも名演技だし、スホの友人たちのサイドストーリーも上手い。

セウォル号沈没事件に対する韓国国内での在り方みたいなものが非常にリアルだったのもよかった。悲しみのあまり感情が先走る人もいれば、現実的で或いは冷徹とも取れる声が挙がるのも当然と言えば当然。
ただ前を向いて生きていくための方法が人それぞれ違うから。

泣かせに掛かってるとはわかりつつも誕生会のシーンは号泣だった。
心を閉ざしていたスンナムがスホの死を受け入れたとき、感情を抑えていたジョンイルが辛い叫びを吐露したとき、3人はスホのお陰で家族に戻れたのかもしれない。
最後の幼いスホとジョンイルの回想シーン。あんなの泣くって。ジョンイルはこれから先、絶対に家族を大事に守り抜くと思うよ。


あ〜やっぱり子どもができてから号泣ポイントが広がってしまって、こういうの本当にヤバい。もう泣き過ぎて泣き過ぎて、心の中の金属バット友保に「お前1月1日からそんな泣いてんの頭バグってんとちゃうか??」とツッコまれるレベル。

本当、ドヨン姐さんの演技はいつ観ても最高です。一生ついていきます。
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