けんいち

二人小町のけんいちのレビュー・感想・評価

二人小町(2020年製作の映画)
4.0
芥川龍之介の同名戯曲を原案としたダークファンタジー。

同姓同名の2人の女の不思議な体験を、香港ロケと絶妙なカラコレが支持。

『時計じかけのオレンジ』へのオマージュなど、映画ファンを楽しませる趣向も。

不条理だが、何故か受け入れざるを得ない世界観は、まさに芥川ワールドそのもの。

楽しめた。




終映後、和田有啓さん(本作企画・プロデュース)、平田淳一郎さん(香港コーディネーター)による舞台挨拶。

和田さん「映画撮影に携わったことが無かったので、寧ろやってみよう」と。

他に、本作オーディションが、香港で『カメ止め』が上映されたタイミングと重なったこともあり、応募者が多かったことや、低予算ならではの苦労など。

お二人共、優しい語り口で丁寧にお話しされていた。

他のユーザーの感想・評価

21-225-83
アップリンク吉祥寺
香港のロケーション、色彩すんばらしい。けど、全体的に散漫な印象。ギャグのバランスが悪いので、あんまし笑えない。
marrikuri

marrikuriの感想・評価

3.2
タイトな ファンタジー? ん……? チガウヨ。ユルめの メルヘン。

芥川龍之介の原作自体が、メンズの妄想思想を書き殴ってるだけの ショートショート(戯曲と呼ぶほどの仰々しさnothing)で、それを メンズなりの慎重さで メンズウケ するかんじに(低予算ながらそこそこ頑張れて)映像作品化してみたようね。

原作で、芥川先生は、「美女は地獄へ行くものだ」と勝手mix な思想を説いておられます。小野小町とか実在人物を浅ましい人間として ジタバタ させてるから散文的に オモシロ だけど、「女vs男。どっちが悪いか」の観念論で遊んじゃってる無邪気さに「所詮、芥川もただの男のコだもんね…」をみる。生理のたびに死にたくなっちゃうような私らの生臭い日常などに、しっかりめに無知だから。しっかりめに男思考だけで哲学してるから。時代の制約もあるのかな。
鳥居みゆきが「容姿なんて、魂がとりあえず入ってる箱」と発言したように、女性が魂の部分ファーストで何かやろうとしてる時に男性社会が勝手に女にのめり込みつつ勝手に女を悪いもん視してきた、そのへんに ムジャムジャ な無邪気さをみつつ、べつだん イライラ はせず私なんかもお話をお話として楽しむ。うん、いいショートショートだ。小野小町をちゃんと尊敬してる女性なんてあまりいないだろうし。

この映画に、清楚でお水っぽい端麗さのキャリアウーマンと可愛い麺屋店員という二人が同姓同名の「小町さん」として用意されてて、特に店員役の スリム なエリズ・ラオちゃんがすんごく愛され顔だった。そのエリズ・ラオが、後半、身勝手ちゃんへと チェンジした局面以降、(写真家専属モデルへとデコられてんのに)逆に全然映えなくなったのが、表現として ミラクル なかんじちょっとあった。キャリアウーマン側のハンナ・チャンのほうは、濡れ場でムネ見せ程度すれば映画的になったんだけど、TV的に、脱がずの内にとどまる。
にしても、上司に脱げと言われた女性が「泣く/従う」の二択しか探さないとか、死神に「妊娠中なら、命を助けてやる」と言われて必死に妊活し始めちゃうとか、道端で急に襲われて叫ばず暴れもせずやられっぱなすとか、もう、女の人の行動が全然 ファンタジー になってなくて メルヘン。
でも、そういった ユルサ が NG なのかといえば、ううん……OK め。あくまでもエリズ・ラオの可愛げや和泉素行のもたらす可笑しみに支えられての オモシロ だったけどね。
とにかく全体として ユル で ヌル な演出だけれど、そのことに慣れちゃった末の、終幕の コンパクト な噴出のかんじは、マリ好みの秀作映画『ゲロリスト』に通じる炸裂意思を持ってたりしたから、“磨かれてる認定” してあげてもいい。

あと、『カメラを止めるな!』の濱津隆之が(カメ止めの メガヒット 中にいろいろ協力してくれた)香港人たちへの最大 サービス としてあのお父さんそのまんまの風貌でカメオ。台詞も一つだけあるよ。(そんだけかよ。。)

ところで、地味汚い宣伝 ビジュアル の新作別映画『Shari』にちょっとだけ興味持って監督が吉開菜央さんって知って「あー、あの人か」って忌避、こっちの『二人小町』を吉祥寺で選んだんだけど、小町の片っぽのキャリアウーマン役のハンナ・チャンが私の去年みた菜央さん作品中の唯一評価できた短編『Grand Bouquet』の腹パンチにやられ続ける謎の無台詞主演女優だったと後でパンフ立ち読みして知った。菜央さんに私追いかけられたキブンだったけど、まあ、縁がなくないってことだね。
世界は、地続き。みんな兄弟姉妹。
仲良くしよっか。

芥川の最高傑作『藪の中』100点 ☞☞ 黒澤が映画化した何ともいえない迷作『羅生門』30点
芥川の楽しめる ヘン な佳作『二人小町』56点 ☞☞ 今回の映画化『二人小町』50点
セカイの クロサワ に勝っちゃってる本作ね。

芥川のもう一つの最高作『蜜柑』を、世界中のすべての映画監督(&監督志望者)全員に共通課題作として短編映画化させ、コンペして、そうして世界中から集まった同題名の全短編をみて上位500人以外の制作者たちに落第勧告し、上位100人にはじゃぶじゃぶと資金援助してあげてその人たちをさらに大きく育成したいもんだ。(きかんしゃトーマスの作り手たち、韓国勢、故人枠で強引に出場のキートン、とかがとっても張り切りそう。日本勢は慢心して誰一人10傑に入らず、、とか、なりそう。)
私がもしも『蜜柑』撮るとしたら、主人公を女性にして、那覇空港へ向かうモノレール(ゆいレール)内ってことにして、蜜柑の代わりに(タンカンでもいいけど)マンゴーかパパイヤか島バナナかドラゴンフルーツにする。
いかん、私が優勝しちゃう。。。

さて、秋に入って栗ラッシュ・柿ラッシュな毎日送ってきた私だけど、年末にかけてはケーキラッシュになってゆくんだろーなー。あらかじめ痩せなきゃ! 芋は敵?
この映画の帰り、PARCO内に最近出来た先手屋でふりかけのり子さんだけ買うつもりだったけど、生クリーム たっぷりのフルーツサンドの “焼き芋”と “マスカット” が欲しくなっちゃって、結局、“いちじく” 買った。んまかったー♪


▽付録▽
原作原案となった芥川の戯曲『二人小町』の一番 ヘン なとこ

黄泉の使い「しかし閻魔王の命令ですから、どうか一緒に来て下さい。何、地獄も考えるほど、悪い所ではありません。昔から名高い美人や才子はたいてい地獄へ行っています」
小野小町「あなたは鬼です」
   ……略……
(一層泣き声を立てながら)「わたしは黄泉の使いでも、もう少し優しいと思っていました」
黄泉の使い (迷惑そうに)「わたしはお助け申したいのですが、……」
小野小町 (生き返ったように顔を上げながら)「ではどうか助けて下さい。五年でも十年でもかまいません。
  ……後略
nt708

nt708の感想・評価

3.9

このレビューはネタバレを含みます

ジャンルで括れないカオスの世界観、完璧なふりをしていて実は穴だらけの物語。本作はそんな芥川の作品、あるいは彼自身の思想を映像として上手くまとめ上げているのではないだろうか。カメラワークや編集こそ平凡ではあるが、そう言った平凡な映像がColour Gradingや音響によって映画として成立するクオリティまで押し上げられていた。

元来、私は芥川の作品が大嫌いである、、と同時に大好きでもある。人間として良いところも、悪いところもダダ漏れなところに嫌悪感を抱く一方で、それはある意味自分にはできないことを彼がやってのけていることへの嫉妬心によるものかもしれないからだ。だからこそ、好きだろうが嫌いだろうが、私は芥川から目が目が離せないのかもしれない。

芥川の象徴と言えば、彼の生に対する執着。本作でもそうだが、彼は主要な登場人物を自滅へと追い込む。自らの身を自らの手で滅ぼそうとしたのは彼自身も同じであり、そのモチーフは生への絶望と死への憧れだろう。しかし、これらのモチーフは並々ならず生きることに期待していた裏返しでもある。生への期待が裏切られたとき、深く絶望し、と同時に死ぬことで生きることで得られなかった何かを得たいと思ったのではないだろうか。

女性に対する視線、あるいは視点がとことんだらしが無いのも芥川の象徴だろう。美しい女性を地獄へと追い込むのは、恐らく死への憧れゆえに、美しきものが死ぬ瞬間こそこの世で最も美しいと考えている(これは、この時代を生きた男性作家の美に対する考え方の傾向である)からであり、死ぬことで2人の愛が永遠のものになるというロマンチズムもまた彼にそのような考えを起こさせたのかもしれない。

こうして芥川に対する自分の考えをまとめてみると、やはり芥川は大嫌いであると同時に大好きな存在、つまり見逃せない存在であることに気付かされる。じゃあ、本作はどうかと言われれば、芥川の戯曲が原作なのだから、好きと言われれば好きだし、嫌いと言われれば嫌いである。この前提を抜きにしたレビューはやはりナンセンスだ。

ナンセンスと言えば、本作における死神の存在は実のところなんだったのか。あれがもし自分のことを死神と思っている男(芥川?)の話だとしたら、本作の演出を大幅に変わり、物語の仕上がりもサイコホラーに近いものとなったのではないだろうか。個人的にはそういう解釈もありだと思うのだが、他の方がどう思うかはわからない。
映画「カメラを止めるな!」の撮影監督・曽根剛さんが映画監督初挑戦した本作は、芥川龍之介の戯曲を原案に現代の香港を舞台に、地獄へ連れて行く女性と恋仲になるという趣味を持つ死神を軸に、二人の小町との愛憎劇が寓意的に展開する。
主人公である二人、一流企業のキャリアウーマン・小町と、食堂でアルバイトするモデル志望の小町を、共に女優・モデルとして活動するハンナ・チャンとエリズ・ラオが夫々演じ、キーとなる死神・王喜龍を香港に単身で渡って13年、俳優だけでなくタレントとしても幅広く活躍する和泉素行さんが悲喜こもごもを交えて演じている。
和泉素行さん以外に「カメ止め」繋がりで濱津隆之さんもちょい役ながら印象的に登場する。
物語は、芥川龍之介の戯曲の骨子、ヒロインが自分と名前と年が同じ女を身代わりに死神に差し出すという内容をなぞるものだが、そこに未だ男性優位社会でもがく女性たちの欲望や野心を反映させた現代の寓話仕立てにしている。
戯曲の結末もシニカルなものだったが、現代劇に翻案した本作はピリッとくる皮肉に満ちたものになっている。
驚く展開が続き、あらすじを観ていなくて良かったと思いました。全編不思議な作品で、画も幻想的でした。
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