Yoshishun

ミッション:8ミニッツのYoshishunのネタバレレビュー・内容・結末

ミッション:8ミニッツ(2011年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

劇場公開時に大ヒットしたわけでもない。
ましてや何か大きな映画賞を獲得したわけでもない。

大きな話題となることもなく静かに公開され、そして気付いたら終わっていたのを今でも覚えています。

そんな作品なのに、"隠れた名作"とまで云われるに至ったのは、純粋に本作が面白い作品であるからだと思います。

『月に囚われた男』で鮮烈なデビューを飾ったデヴイッド・ボウイの息子、ダンカン・ジョーンズ。次にメガホンを取ったのが、タイムリープものの本作。主演はジェイク・ギレンホール。

『バタフライ・エフェクト』や『アバウト・タイム』といったタイムリープものは本当に名作、傑作が多いですが、共通してるのは、"愛する人を救いたい"というストーリーです。

ご都合主義な展開になることが多いジャンルだけに、こうした普遍的なテーマを限りある時間を通して描くことこそ、映画で愛を描く意味があると思います。ラストの「もし人生があと1分で終わるとしたら?」という問いかけに対する答えが、この映画の主たるメッセージです。

さて本作は、前半は主人公と同様、わけのわからぬまま物語が進んでいきます。誰に対しても疑惑の目を向けざるを得ないなか、クリスティーナを全く疑わないのは不自然だと思いましたが、ミスリードに次ぐミスリードに主人公と同じように悩まされる羽目に。

中盤のまさかの展開から一気にヒートアップし、意外にも世界観や任務の詳細が語られるから物事を充分理解した上で、観客としての自分もヒヤヒヤしながらこの極秘任務に身を投じるようなスリルを得ることになります。

タイムリープものでここまで没入感に浸れるのは中々ないので、これだけでも既存のタイムリープ映画には面白さが詰まっていたと思います。

案外早々と犯人は見つかるし、犯行動機がありきたりで拍子抜けしますが、父との関係や現実との対比、それも仮想世界への葛藤といった様々な伏線がクライマックスで一気に回収されていく爽快さ。特に最後の8分間を終えた瞬間、すなわち一人の男、一人の女性、そして本来死ぬべきではなかった乗客の笑顔が儚くも美しい。やり直せない時間の流れをどう生きるか、最後の1秒までどう生きるか、人生観を変えてくれるような瞬間でした。

個人的にはここで終わってもよかったのですが、そうなると爆弾魔とのやり取りの場面での説明が尽かないので敢えて付け足されたものだと考えます。正直1回で全部理解するのは難しいので、考察を参考にするのがいいと思います。

色々観た上での考えとしては、ラストシーンの舞台は、爆破事故が起こらなかった場合での並行世界(パラレルワールド)で、ショーンの意識に乗り移ったままでの状態であると思いました。元々あのプロジェクト自体乗客を助けることを前提としておらず、テロの主犯を捜すのが最大の目的としていました。既成事実をねじ曲げることはできず、あくまでシュミレーションとしての捜査に過ぎなかったと思います。なので、父に謝ることもできず、また愛する人ができることなく、異国の地で1人戦死した主人公が、あの世界で初めて守りたい人を見つけ、したいことを見つけたと思うと、彼自身の本来歩むべきだった人生がどれだけ素晴らしいものだったか痛感されます。

98分という気軽さがうりですが、真剣に観てないと置いてけぼりを喰らう良作です。自分の中ではまた面白いタイムリープ映画に会えたなとそこそこ満足できました。
Yoshishun

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