このレビューはネタバレを含みます
事前の情報は『樹木希林、遺作にして世界デビュー作』という宣伝コピー、そして監督であるドーリス・デリエは小津安二郎をリスペクトしていて、本作の前日談として約10年前に撮った『HANAMI』という作品も『東京物語』に着想を得て制作されたということ。
当然、前作のテーマとそこからの流れ意識して観賞することになりましたが、これが間違いでした(泣)
ストーリーのほとんどはドイツのミュンヘンが舞台になっていて、生きる目的を失い、時折ゴーストの姿に悩まされる主人公とその家族、親戚との人間関係が描かれます。
そこに東京で亡き父に優しくされたという日本人女性ユウが現れ、彼の生き方に影響を与えていくだけでなく、亡くなった両親の幻影までが絡んでくるのです。
あれ?
どういう結末に向かってるの?
樹木希林はいつ出てくるの?
・・・と考えているうちにはたと気づきました。
そうか・・・
なんでオープニングロールで気づかなかったんだろう・・・
この映画は“怪談”だ!
小津安二郎
黒沢明
溝口健二
日本映画界の巨匠たちへのリスペクトを小泉八雲でコーティングするとこの映画になるんだ!
そう気づいてからは、それまでのストーリー展開も府に落ち、ラストまですんなりと楽しめました。
終盤、舞台は東京へと移り、樹木希林がしっかりと“怪談”の語り部の役割を果たします。
さすがにその痛々しい姿を隠せるものではありませんでしたが、それを補って余りある存在感は見事としか言いようがありません。
そして『HANAMI』に続きユウを演じた入月絢(本業は舞踏家)の幽霊としての演技もなかなかよかったです。
ただ、日本文化へのリスペクトが強すぎるせいか、寿司と天ぷらとうな重を同時に食べている気分に・・・
樹木希林さんへ
『十分生きて自分を使いきったと思えることが、人間冥利に尽きる』というあなたの言葉。
その使いきりの姿をしかと見届けました。+0.3
合掌