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ペイン・アンド・グローリーのgenarowlandsのレビュー・感想・評価

3.8
アルモドバル監督の自伝的作品。亡き母や別れた昔の恋人や初恋の人への思いを静かに描いている。

まず何にもまして色彩が美しく細部まで考えられたデザインに圧倒される。アーティストの家を紹介するインテリアや建築雑誌のような、画面に映るすべてがアートで、この色彩感覚は唯一無二だと思う。

この美へのこだわりのなかで交わされるエピソードと会話が正直ベースで、かなり率直で赤裸々であるのに、不思議とカラッとしている。スペインの風土を思い起こさせた。

母親役は今回もペネロペで、たくましく美しい。貧しくて洞窟に住むはめになったが、村の画家志望の青年と取引し、小学生の優秀な息子(監督のこと)が青年に読み書きを教え、青年は洞窟の中に真っ白な漆喰を塗り、タイルを貼っていく。

あのインテリアの豊かな色彩はこの青年の色彩から始まったのかもしれない。恋心とともに。

イケオジ揃いだったが、皆ひげを生やしていて、またもや区別がつかず、主人公のサルバドールと昔の恋人のフェデリコは一人二役かと思った。

アルモドバル作品に登場する女性たちはたくましく、父親は空威張りしていて不甲斐ない。なんだか情けなくて出番が少ない(時には母親役に殺されたりする)。モデルとして強い母親像ばかり描いているけれど、本当は父親も描きたいんじゃないかなと思った。監督自身に内在していている父親的なものを。弱さと繊細さを。母親に苦労かけた憎しみがまだ残っているのだろうか。そんな描かなかった、避けていることの方が大切な部分だったりする。父親の年に近づき、超えたら、許せることの方が多いのではないか。

そう思って観ると、監督役のサルバドールはかなり対人関係が不器用に思える。言ったら相手が気分を害することわかっていて正直に伝えてしまう。自分の負の感情や欲求をストレートにぶつける。それなのにそれなのに優しさや好意をうまく言葉にできない。本当の気持ちは芸術として昇華させる。小説を書き、絵を描き、映画を撮る。自分と対話しながら言葉を探し、間接的に作品を通して相手に伝える。

タイトル「痛みと栄光」だけど、栄光を得るために、切り捨てたり、遠ざけたり、最優先にしなかったり、後悔するには遅すぎて、今から許してもらえるわけでもない。それでも後悔することの方が多くなってくる。とくに肉体が辛いと、気弱になり自分を責めたくなる気持ちはよくわかる。

思い出すと胸の奥が痛む、あの人たちに再び会いたい。映画を撮ることで思いを伝えたい。あの初恋の人に。

そこでも優しさを隠し、初恋を「初めての欲望」と自分を貶める。

アルモドバル監督の複雑で繊細さを感じられる佳い作品だった。
父親に正面から向き合った作品を観てみたい。
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