KnightsofOdessa

ペイン・アンド・グローリーのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

2.5
[痛みと栄光、これが私の生きた道] 50点

今年やたらと評判のいいアルモドバルの新作は、本国公開後にカンヌに招待されるという異例の待遇を受けた後に、アントニオ・バンデラスが主演男優賞を受賞した。彼以外にもペネロペ・クルスやセシリア・ロス、フリエタ・セラーノといった常連たちを引き連れて(彼はいつも常連たちで映画を撮ってる気もするが)完成した最新作は、低迷するキャリアに悩む中年映画監督が主人公となっており、常連たちのアンサンブルも相まって、アルモドバルの自伝的な作品と言われている。そんなこと言われてしまうと、『8 1/2』がチラつくどころか目の前にスライディングで登場すると思うが、端的に言ってその通りである。小細工もせず、ほぼ企画丸パクであることには開き直っている様にすら感じる。そう、これは、アルモドバル版『8 1/2』なのだ。

バンデラス演じる映画監督サルヴァドール・マロが自分の創作活動に行き詰まりを感じている頃、自身の古い作品がリマスターされて再公開される運びとなった。旧作の主演俳優アルベルト・クレスポとは彼のヤク中が原因で疎遠になってしまうが、リバイバルを前に再会することとなる。サルヴァドールは彼との出会いをきっかけに過去の自分と向き合っていく。家族とともに田舎に引っ越した1960年代、マドリードに上京して恋を得た1980年代の2つの時代を中心に、回想と現代が交互に配置され、年老いた彼ら/彼女らの存在が、間に流れたであろう時間を圧縮する。

しかし、往年の鮮やかな色彩を取り戻すわけでもなく、幻想的な記憶と現代の融和にしたわけでもなく、個人的なお悩みの吐露に終止した本作品は、フェリーニが自分のお悩み相談を芸術まで昇華した『8 1/2』のような魔力を持つまでもなく自沈しただけのように思える。エピソードを並べ、画ではなく言葉で語るあたりから、完全に観客をセラピストに仕立てて現状や想い出を語る姿に重なってしまう。

アルモドバル本人や彼の熱狂的なファンにとっては堪らない映画なのかもしれないが、私には老人の自分語りにしか見えなかった。次作があるかは知らんが、この映画を観た後なら次の作品が一番の楽しみだ。
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