ヒロシー

82年生まれ、キム・ジヨンのヒロシーのレビュー・感想・評価

82年生まれ、キム・ジヨン(2019年製作の映画)
3.5
原作を読んだ人、もしくは多少なりともフェミニズムに興味を持っている人なら、『82年生まれ、キム・ジヨン』の映画化がいかに難しいかは分かるだろう。同じく家父長制に苦しめられた女性が憑依する恐怖、精神科のカルテから浮かび上がる彼女の苦しみの数々は、文学的に行間から滲み出てくるところが多かった。

この映画は、冒頭で当たり前のように原作そのままはやらないよという決意表明があり、勇気ある脚色の連続でサクサクと映画の世界へと没入させる。特にカルテで人生を振り返る小説の映画館なのに、回想シーンが驚くほど少ないのは勇気が要る挑戦だっただろう。それ故に、原作の数々の苦しみ全てを知らない観客は、彼女をここまで追い詰めた遠因を映画的文脈から感じることになるのだが、一方でこの映画の撮影と編集はなかなか面白くて、特にジヨンが家で家事をするだけの描写を絶望的に見せるのが非常に上手い。小説では描写が少なかった現代の彼女の様子にフォーカスを当て、画面から苦しみを滲ませる演出は、王道ながら素晴らしいと思う。

一方で、特に夫の苦悩へのフォーカスっぷりが思ったより多いのも合間って、夫の人間性がより強まり、最後には夫婦間の問題へ帰着していくという流れは、「キム・ジヨンは私だ」と多くの女性が声を挙げた作品の映画化としては問題ではないか、とも思う。観客が自己投影出来る隙間をもっと作っておくべきではなかっただろうか。
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