2020年210本目。
「世の男性よ、気を付けろよ」とそんな風に戒められる映画だった。
男尊女卑から男女平等へ、世界が気付き始めて数千年の歴史を経てようやく取り組み始めたような普遍的な問題・テーマがキム・ジヨンという一人の女性の物語の中に散りばめられていた。
育児を「いいご身分だ」と陰口を言う男や、セクハラ研修を「なんで受けなきゃいけないんだ」といってた同僚と比較すると、遥かに女性・妻・母親に対して理解と理解しようとする姿勢を示せているデヒョン。
そんな彼ですら圧倒的に認識が甘い。それが平均的な男性の現状なのかもしれない。
育休制度を男性が取ることが企業の事例として特別に称賛されているうちは、まだまだなのかな。それこそ、「イクメン」なんて言葉を使っているうちは。
「母親の仕事は遥かにしんどいぞ」という旨の Twitter まとめとかを、読んだことがあるけど、まだまだ気付きの方が多い。
「育児」というミッションの難易度やプレッシャーに焦点を当てて描いていた「タリーと私の秘密の時間」を思い出したりした。
タリーの身に降りかかったことは、このジヨンにも降りかかっていることだったし、男女平等が進んでいるイメージの欧米でも一つの作品として成り立つのだから、やはり人類平等のテーマなんだな。
あと、この映画では「結婚は相手の家族と結婚することである」という言葉も思い出させる内容だった。
序盤の夫婦の帰省の下りの会話はリアルだったし、旦那側の実家にいるときのジヨンの居心地の悪さよ。
どんなに好きな人でもその人の後ろにいる家族も丸ごと愛することができないと、そして、その家族にも愛してもらえないと、結婚生活の難易度は遥かに上がるなと思った。
昭和時代の男女の考え方を持った世代の人たちと、現代の我々の "つなぎ目" に直面する人たちは求められることの「当たり前」のギャップに特に苦しみ、摩擦が大きいんだろう。
韓国ではそれを「朝鮮時代」と呼んでいたけど。
その少し昔に、現在よりも更なるマイノリティとして苦しんだ母親の背景の物語もすごく良い。
というか、ジヨンの苦しみを中心には据えているものの、母親に限らず多くの女性の物語が見えてきたのも良い。
お姉ちゃん、チーム長、会社の同僚。
優秀で社会で活躍している女性ほど、たくさんの偏見や差別の目を交わしてきて、強い。
だって、お姉ちゃんのキャラクター最高だったもん。
北欧の国を差して「韓国人が少ないから」と言っていた子供の頃から、「自分」を持った女の子だったし、そのキャラクターとユーモアで社会で上手くやっていっている方だったし。
そんな彼女でさえ、敵が親戚の中にいたりする。
「こうあるべき」という考え方は基本的に持たない方が人を肯定してあげられる生き方を選びやすいな。
極度のストレスや社会的圧力から自分の中に複数の別人を作り上げたジヨン。
もちろん適切な治療を受けて、整理していくことが肝要だし、本人が自覚して治療を始めたことは望ましい。
「本人を通院させることができれば、半分は治療が完了している」と精神科の先生が言ったように、ジヨンが自分自身の問題に向き合うことの優先度をあげて、治療に専念できるようになるまでの物語だから。
だけど、別人になってしまうジヨンの状態の描き方もある意味不思議だった。
意図してかわからないけど、彼女の周りの人にとって大事な存在に憑依することを選択し、ジヨンのSOSを伝えるとともに、何か伝えて欲しかったメッセージを残す神様的な存在になる瞬間。不思議な描き方だったな。
キムジヨンを演じたチョン・ユミは圧倒的美人だったな。
日本の女優さんに凄く似ている人がいたんだけど、名前が思い出せない笑
やつれていて疲弊している姿を以ってしても、その綺麗さが頭から離れない。
コンユは「新感染」しか知らないけど、「コンユって、この人のことだったんだ」感はある笑
圧倒的韓国の美男美女の夫婦なので絵力はあるよね。
特に最後の肩を組んで歩く後ろ姿なんかも。
とりあえず、ちゃんと考えてちゃんと行動にフィードバックせねばと思う内容だった。
あんぱんではなく、クリームパンを買う気遣いのような小さな変化で良いから。