にしやん

いなくなれ、群青のにしやんのレビュー・感想・評価

いなくなれ、群青(2019年製作の映画)
4.0
河野裕の「階段島」シリーズの第1作にあたる同名小説の初の映画化作品らしいわ。ファンタジー色の強い青春ミステリーもんやな。物語の舞台は階段島と呼ばれるどこにあるかわからん架空の島で、誰に何で捨てられたんかは本人にもわからんねんけど、そこにはなんせ捨てられた人々が集まってきてて、島の生活自体は平穏そのものや。ところが、この島の住民はある日突然、なんかわからんけど、忽然と姿を消してまうねん。原作は未読や。

映画は、その島に気が付いたら住んでた男子高校生の七草(横浜流星)、元カノの真辺(飯豊まりえ)が彼の前に現れたとこから始まるわ。映画の展開自体は地方を舞台にした、いかにもありがちな青春映画そのもんなんやけど、なんせ話の前提になる設定がミステリアスでめちゃめちゃ不穏やさかい、普通の爽やかでほろ苦い青春もんというわけには全くいかへんわ。はっきり言うて、ここがこの映画のミソや。

この島は、何も考えんと人に言われたことさえ普通にちゃんとやってたら、周りとのいざこざも金の不自由もあれへん天国みたいなとこやけど、なんかちょっとでも世界の成り立ちや社会や学校や自分自身について疑問を感じた途端に、「外の世界」が全く見えへん息苦しい牢獄みたいになってまうっちゅう、あっちゃこっちゃで作られてる地方を舞台にした青春映画がひた隠しにしてる過酷な現実みたいなもんを、この映画はある意味暴露してるわ。意外に凄い毒があるなと思て、ちょっとビックリやったわ。

台本について、特に主演二人のセリフに関してやけど、彼らの発する言葉や会話は、哲学的な純文学小説のセリフそのままみたいなとこがあって、聞いてるわし等かて頭の中でいっぺん咀嚼せんと飲み込まれへんような固さやぎこちなさがあるわ。演技にしたかて全く自然な感じやなく、表情も全然柔らかないし。最初それがちょっと鼻につくねんけど、でも、それが逆に何かざわざわとした違和感、どこか普通やない危うさ、生々しい緊張感を醸し出す仕掛けにもなってんねん。

それと、真っ直ぐな女子高生を演じてた飯豊まりえがごっつすばらしいわ。女言葉を使わんと、ちょっと男性的な言葉遣いで通してたとこなんかはキャラを立たせるためにやってたんやろけど、周りの青春映画ではあんまり見かけへんキャラを最後まで巧いことやってた。とにかく飯豊まりえが良すぎたわ。

この映画、賛否や好き嫌いが分かれる作品やと思うけど、わしは結構好きなやつや。キラキラだけやないちょっと変化球の青春映画って新鮮やし、感動させるポイントが他の青春もんとは明らかにちゃう。ちょっとやられたわ。これ以上詳しいことはネタバレなるから言わんけど、すべてが明らかになった時、なってからの終盤からラストは、何か言い知れん深いもんを感じたわ。物凄く切ないようでいて、じわじわ押し寄せる幸福感も同時に感じるみたいな。せやけど、一点だけ、種明かしの内容にもうちょっと論理的かつ分かりやすい説明があったら言うこと無いのにな。ここだけちょっと惜しい。

それと村上春樹の「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」を思い出してしもたわ。何かちょっと似てる。この作家、村上春樹の影響ごっつ受けてるで。絶対間違いないわ。村上春樹ファンにも是非見てほしいもんやわ。
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