銀色のファクシミリ

いなくなれ、群青の銀色のファクシミリのネタバレレビュー・内容・結末

いなくなれ、群青(2019年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

『#いなくなれ群青』(2019/日)
劇場にて。原作未読。起承転結の「結」が「転」になり、凡庸にすら映っていたそれまでの積み重ねが、物語を美しく飛翔させる。ミステリ要素の使い方の秀逸さ、なによりファンタジーだからこそ描ける真実があると示した、年間ベスト級の傑作。

あらすじ。階段島、人口約2000人。島で暮らす人々は全員いつのまにかこの島に来ていた。生活は充分に保障されているが、島から出ることも外に連絡することも出来ない。しかし不思議と人々は自然にこの島に馴染み暮らしている。主人公、七草(横浜流星)もその一人だった。

寮から学校へ通う、保障された「なにも変わらない日常」。ただ時折、人が消える。島から出るには「失くしたもの」を見つけなければならないと云われているが、消えた人々がそれを見つけたのかは分からない。ある日、七草の幼馴染・真辺由宇(飯豊まりえ)が島に現れたことで、七草の日常は大きく変わっていく。

感想。どこまでも真っ直ぐな真辺は、状況に納得できず階段島からの脱出を画策する。それにつきあい、従う七草。階段島の不思議、島を支配する「魔女」と呼ばれる存在、何者かによる告発の落書き。しかし物語は徐々に、本来はサブストーリーのはずの音楽祭にまつわる、ある出来事が中心になっていく。

二人と同級生たちによる群像劇。悲観主義者、お調子者、真面目な委員長、寡黙で内気な女の子。それぞれの為人と魔女の実在が分かったところで、物語は大きく転回する。七草が辿り着いた結論。人々はなぜ階段島に現れ、かつ消える人がいるのか。全員の為人すらこの島の謎に関わっていた。

導かれた七草の決断、真辺の決心。好きとも愛しているとも云わず、それでも伝わる、生きることを肯定する真実の物語。ミステリ要素、ファンタジー要素を巧みに使った脚本と構成。それを映像とキャスト陣で血を通わせる。とにかく最高でした。感想オシマイ。

追記。キャストで特筆すべきは、やっぱり横浜流星。クライマックスの真辺とのシーンで、七草の心がはっきりと動いたことが伝わる、伝えるのが、この映画で最高の場面。悲観主義者の七草というキャラクターの葛藤と終盤のどんどん血が通っていく様、クライマックスまで含めてキャリアベスト級。

『#いなくなれ群青』ネタバレ感想。
構成の妙と、実写ならではの魔女の正体の明かし方と、魔女役の俳優さんについて。

この映画、中盤までは不思議だけどなんだかな、みたいなところもあるのです。でも明かされた階段島の秘密により、それまで凡庸な学園ドラマのように積み上げてきたものが一変する。ステレオタイプな人物造形、という「映画のお約束」を利用している。ここを実写化でうまく使ったのがとにかく秀逸。
そして魔女の正体が最初に明らかにされるのは、電話越しの声。ここで矢作穂香さんの、甘いけど厚く強く通る特徴的な声が活かされています。これは音声で伝えられる実写映画ならではの演出。観ている誰もが「あの子が魔女だったんだ」と堀の姿を思い浮かべる。これは実際に七草の前に現れるよりも、観客それぞれの頭に堀の姿を浮かばせることで印象を強くしている。そして魔女の言葉に全員が耳を傾ける。ミステリ要素のある映画での、探偵役の推理披露シーンは必要だけど、延々と解説するだけでは、実はあまり面白くない。ここで魔女と七草の対話のスタイルを採り、七草の決心をこの解説シーンに差し込むことで、面白くなさを消している。ここも秀逸。
魔女役の矢作穂香さんについて。自分が矢作穂香さんを映画作品で最初に観たのは『江ノ島プリズム』の今日子という、主人公と不思議な関わり方をする女の子役で、とても印象的な存在感がありました。気になって、その後に出演作である『放課後ロスト(リトル・トリップ)』→『高速ばぁば』→『思春期ごっこ』→『花筐 HANAGATAMI』→『クレヴァニ、愛のトンネル』の順で観たのですが、特別な存在感のあるキャラクターがとても多い。具体的に云うと「少し違う世界で生きている儚い人」な特別な存在感。
印象的な大きな瞳と秀でたルックス、甘く厚く強く通る声という特質に加えて、主役を演じられる演技力。これによって生まれる矢作穂香の「煌めきの強さ」は転じて「少女の儚さ」。演じるキャラクターに大きな説得力を持たせていると思います。これは「思い出の中の少女役」である『思春期ごっこ』『クレヴァニ、愛のトンネル』の二作品の予告編をYOU TUBEなどで確認していただけると顕著です。とにかく煌めいていて儚い。
この『いなくなれ、群青」で魅せるのは、煌めきと儚さを抱えた美少女と美女の両方の顔。またこの人だから、正体を明かす電話の声の演出が栄えているのだと思います。伏せないと云えないけれど作品MVP。
特別な存在感を持つ矢作穂香さんについては、『クレヴァニ、愛のトンネル』の感想を書くときにツイートしようと思っていたのですが、『いなくなれ、群青』を観た以上、まずは伏せてこの感想を書きました。「矢作穂香さんが出ているから、もう100点満点で5億点だな」とか、医学用語でいうところの手遅れみたいな印象でこの映画を鑑賞しに行ったのですが、矢作穂香さんはもちろん5億点で、作品も年間ベスト級という驚き。矢作穂香さんと、上記に挙げた出演作品が気になった方は是非見て下さいね、というところでふせったーも感想オシマイ。
(2019年9月8日感想)

『#いなくなれ群青』鑑賞二回目のネタバレ感想。
この感想は「二回目のほうが、みんな演技がこなれてるなあ」という、どうしようもなくダメダメな雑感を書き込んだ時から始まる。真面目な気づきは三つでした。

一つ目は映像。内省的な物語の、閉塞を感じさせ過ぎない群青色の青空の開放感。そしてある人物の包容力を象徴するような緑の部屋の美しさ。

二つ目は「フレーム」の存在。誰かの心の内側を映像的に示す「フレーム」。トンネルの出入り口、屋上の手すり、窓枠。フレームに人物が二人収まる時、どちらかの内面にもう一人の人物が入っている。遺失物係の部屋の窓格子は、魔女が島の人々のそれぞれの内面に寄り添っていることを示しているようでもあり。この演出の最後は、七草と真辺のラストの海岸のシーン。まったくフレームのない場所で、互いの内面でつながり、同時に二人は心を外に向ける。フレームの演出の最後に、フレームをなくした開放と解放。
加えて握手する二人の背景は、群青色の青空と同じ大きさの群青色ではないけれど青い海。理想主義者の真辺を示す空と、悲観主義者の七草を示す海が、同じ大きさで映される。空の青と海の青を存分に使った美しさ。ここも実写ならではの映像と演出。

三つ目は、一回目で書きましたが横浜流星の演技力。二回目だとよりその機微が伝わる。特に灯台からの帰りで真辺と出会うところからラストまで、ほぼ完ぺき。七草は大きく表情を変える人物ではないので、表情ではわずかな差異しか出せない。でもその場その場での心象がどんどん伝わってくる。これはここまで積み上げてきた物語と、心象の機微を表現できる横浜流星の演技力の双方があってこそ。さらに不器用なまでに真っ直ぐな真辺を好演する飯豊まりえも加わって、素晴らしい出来栄えに。

映像・音楽・演出・脚本・キャストで織り上げる、映画という総合芸術。こういう映画が観たくて映画館に通っています。一年に数えるほどしか会えない、そういう映画を観た時に思い出す感謝の気持ち。鑑賞直後の感想でも書きましたが、この映画に関わっている人全員にお礼をいいたい。いい映画を観せてくれて、ありがとうございました。二回目の感想もオシマイ。
(2019年9月15日感想)

#2019年下半期映画ベスト・ベスト主演俳優
#2019年映画部門別賞
・横浜流星/『いなくなれ、群青』
心情吐露の少ない主人公・七草が味わうクライマックスでの無上の喜び。その心象を微細な表情の変化とセリフのトーンだけで伝えてくるのがとても良い。『青の帰り道』とは真逆の良さなのも驚き。
(2019年12月31日感想)

#2019年下半期映画ベスト10
・『#いなくなれ群青』
こういう映画を観たくて映画館に通っているので。起承転結の結が転となって飛翔する物語。下半期脚本賞。柳明菜監督と脚本の高野水登氏の新作情報まだかな。
(2019年12月31日感想)