開明獣

もみの家の開明獣のレビュー・感想・評価

もみの家(2019年製作の映画)
4.0
富山の農村の四季折々に触れて,埒もなく心傷ついていた少女は緩やかに自分を取り戻していく。田を植え、野菜を収穫し、地元の祭りで獅子神様の舞をまい、人と出会い、別れ、命の終わりと始まりにも立ち会う。

淡々と過ぎていく日常の中で、持っていたトゲが、ぽろりぽろりと落ちて、やがて生きる喜びが宿ってくる。なんとはなしに息苦しく感じる社会の中で、生き難い生活を余儀されてきた人間の再生の物語りは、大きな抑揚があるわけでもなく、特別なクライマックスがある訳でもなく、されど、どこか気持ちの居住まいを正してくれる。

主役の南沙良は、「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」の時は、若干気合が空回りしているようで堅苦しく、準主役の蒔田彩珠の方が印象に残ったけれど、本作では抑えた演技がとてもいい。

乾燥した冬の日、縁側に置かれた碁盤に碁石をピシリと打った音が響くような、凛とした佳品。

最後に本作が遺作となってしまった、名優、佐々木すみ江さんのご冥福をお祈り申し上げます。
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