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TENET テネットのsanbonのレビュー・感想・評価

TENET テネット(2020年製作の映画)
3.7
秘密主義ここに極まれり。

なんだこりゃ、ぜんぜん意味不明じゃん。笑

観進めていけば少しは理解が追い付くかとも思ったが、気付けば周回遅れのまま物語が先にゴールテープを切ってしまっていた感満載の今作。

本当に「クリストファー・ノーラン」監督は、感想を書くのが難しい作品ばかりお作りになられる。

こちとら、必ず感想を書く前提で映画は観ているもんだから、ずっと気になりつつもここまで中々手を出す覚悟が出来ないままだったのだが、案の定難解な内容過ぎて今涙目で文章を打っている始末である。

まず、今作をざっくりと説明すると、時間軸を完全にぶち壊そうと企む"未来人"から人類を救う為に「TENET」という組織にスカウトされた主人公が、発動装置である「アルゴリズム」の奪還に挑むという話となっており、今作の物語上の"本当の起点"となるのは、作中では一切描写のない「100年後の未来」となっている。

そして、そこからずーっと時系列を遡っていって今作のメインストーリーに繋がる訳なのだが、今作はその"逆算方式"の仕掛け作りが正直言って上手くない。

本来、今作のような大オチがある前提の作品というのは、話がややこしくならないように、主要人物の"表層上"の立場や目的などはなるべく分かりやすくしたうえで、行動や台詞、アイテムなどを駆使して"含み"を持たせる事で、その"裏"に隠された"オチに繋がる真意"を、"違和感"という形で伏線的に散りばめながら、最終的などんでん返しを演出していく必要がある。

この、一見"単純"なストーリーの裏に、実は"複雑"な仕掛けがあるという"裏切り"の構造こそが、視聴者の理解度を担保したうえで驚きを誘う為には最も重要だと思うのだが、今作に至ってはそもそもが主人公自身が訳もわからず言われるがまま行動しているという設定で、そこに繋がりの見えない人物同士の、繋がりが見えない会話が、大した起伏も面白味もなく淡々と続いていく中で、難解設定が覆い被さってくるもんだから益々分からなくなってくる。

ノーラン監督の欠点は、物々しく重厚な雰囲気をつくりたいが為に、会話のトーンまで暗くするあまり、作中のコントラストにメリハリが無い点だ。

ずっと暗いままろくな説明もされずに、よく分からない人物が、よく分からない状況で、よく分からない話を延々としているから、ややこしいとか以前に物語にきちんと興味が持てない。

今作は、会話の端々で「無知は武器」という言葉を多用するのだが、だからと言ってあまりにも必要な説明をくれないもんだから、ちょっとそれを免罪符にし過ぎていた感が否めなかった。

更に、設定上にも解せない点はいくつかあった。

まず「順行」と「逆行」の切り替えルールがよく分からない。

劇中では「回転ドア」の往来でしか切り替えは出来ず、逆行中は肺に空気が巡らなくなるから呼吸器が必須だと説明があった筈だが、逆行中だと思われる場面でも呼吸器を外してるシーンがあったし、逆行であっても時間の経過は順行と同じ1秒という事で、一週間遡るには同じく一週間分の時間を要するなら、その間の生理現象全般はどうなるのだろう。

シモの話は下品になるのでご想像におまかせするとして、呼吸すら自然には行えないのなら、当然食事なんて出来ようはずがないと思うのだが。

なんか、ところどころで回転ドアを使わずに順行と逆行が切り替わってたような気もするし、設定も緻密そうにみえてガバガバな部分はしっかり目についてしまう。

あと、逆行世界だと炎は氷に変質するという設定もなんか妙だ。

漏れ出たガソリンに火をくべられて、車の爆発に巻き込まれたというのに、逆行してたおかげで凍傷寸前程度の外傷で済んでしまうというのは、どうにも被害の度合いが比例していなさ過ぎる。

順でも逆でも、起こる結論は同じでなくてはいけない筈なのに、どう見ても爆発炎上と同等のダメージではないのは結構な違和感である。

また、今作のヴィランである「セイター」が時系列上"物語の冒頭時点"で殺された後も、順行世界では普通に生きて登場するのもちょっとよく分からないし、セイターの心臓が止まったらアルゴリズムが起動すると言っておいて、何も起きなかったのも意味不明だ。

そもそも、奪還してなにをどうしたから防げたんだっけ?

ここら辺詳しい方、是非コメントください。

と、散々マイナス点ばかり列挙してしまったが、スコアはちゃんと3.7とまあまあの評価をつけている。

ストーリーは難解極まりないが、映像はそれでもやはり一級品に違いはなく、撮影の裏側を知りたくなるような奇抜な演出は、観ているだけで脳が活性化されていくような新鮮な感動を与えてくれる。

この感覚を体験するだけでも、観る価値は十分に感じられるのだから、ここは単純に凄いところだろう。

しかし、その反面内容は上記で疑問をぶちまけたように、難しいというよりは整合性が破綻しているから理解が出来ないと解釈するしかないくらいには"欠陥商品"と言わざるを得ない為、3.7でも相当大甘に採点していると言っても過言ではない。

とにかく今作に限っては、よく出来ているようで実際には辻褄が合ってないようにも感じる、そんな狐につままれた気分になる不思議な作品であった。
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