HicK

TENET テネットのHicKのレビュー・感想・評価

TENET テネット(2020年製作の映画)
4.1
《見えない圧のある
とがったノーラン作品》

【感じろ!】
ノーラン監督作の中で一番衝撃を受けた作品だった。劇中のセリフ通り『理論を「理解」しろ』では無く、『俺の理論を「感」じろ』なのだが、その"圧"は理解を求められるよりも強いのは確か。感じてくれ!の主張がビシビシくる。

【映像に込められた理論】
CGを最小限にし生身のアクションが鮮明で迫力がある。逆行するアクションという今まで見た事が無いような映像に興奮した。その逆行シーンの緊迫感が非常に高く、マスクによる息苦しさや耳がこもってしまったかのようにアレンジされた音楽がより引き立てる。順行と同時に描くシーンは本当にお見事で、監督の理論をちゃんと体感できた。見終わった後も色々考えてしまう楽しさもあった。

【好きだったシーン】
クライマックスの奇襲でビルを順行で破壊し、更に逆行でも破壊する描写。破壊された建物が一度蘇り、また破壊されるというダイナミックさがカッコいい。また、キャットが羨ましがっていた海に飛び込む女性が実は…、という展開も「ここに繋がるのか!」と。そんなベタな驚きがこの奇想天外な物語の中では、ちょっと嬉しい。そして、最後の主人公の涙あふれる表情もキャリアが浅い俳優とは思えないほど「全てが繋がり、一気にさまざまな感情が溢れてくる様」を見事に表現していたと思う。素敵だった。

【素晴らしい音楽】
リバースがカッコいい。予備知識がなかったのでハンス・ジマーの音楽だと思っていたが、別の作曲家とは気づかないほど他のノーラン作品を踏襲しているかのような楽曲。いや、ジマー氏以上に挑戦的だった。めちゃくちゃ良い。

【監督の演出への疑問】
「考えずに感じろ」の意図に基づいた演出は理解しつつも、ストーリー展開や人物関係までもが結構粗く感じてしまった。会話のテンポが異常に速い。しかも「〜をするために〜をする」が連続で起こる。その一つ一つが大きく物語を動かすものでは無かったり。その他も音楽や環境音にセリフがかき消される演出もあったりと、わざと理解を妨げるような意図も感じた。そのため、この映画に対する疑問は「逆行理論」自体では無く、「なぜ監督はそのような演出を選んだのか」という疑問の方が大きい。

【総括】
ラストで全てを悟った主人公の表情と自分の感情が重なり、最後はとても満足感があった。ノーラン作品はいつも「中二病にも哲学が必要だ」と言わんばかりの独自のルール作りをしていて面白い。しかし今回は更に難解さを呼ぶ監督の演出が加わり、「感じてくれ!!」の強い主張も相まって、過去一番とがったノーラン作品になってると思う。
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