銀幕短評(#431)
「TENET」
2020年、アメリカ、イギリス。2時間30分、公開中。
総合評価 92点。
ノーラン監督の「どうだいイケてる映画だろう?」という ニコニコ顔が目に浮かぶような、超イケてる映画ですね。最初のうちは 007シリーズの亜種かと退屈しましたが、カーアクションのシークエンスから オリジナリティが 立ち上がり アイディアの切れ味を見せつけます。
時間のとらえ方については、ひとによって考えは区区だと思いますが、韓国映画「オアシス」の回で 幸福について語るときに こう書きました。
“ 時間、について語りだすと長くなるので割愛しますが、わたしたちが生きられるのは、過去でも未来でもなく、「いま」しかない。したがって「幸福」は「未来」には感じられない。未来は永遠にやって来ません。”
と。 この映画を観ても わたしの考えはまったく変わりません。なぜなら もし過去や未来に行けるとしても、そこでできることは、自ずと 単にその世界を傍観するにとどまるから。もしも かんたんに時間旅行ができるとして、過去をちょこちょこと都合よく変えられるのだとすれば、未来を興味本位で ジロジロのぞき見できるのであれば、こうして精一杯に生きている「いま」の重みが おおきく損なわれる。生きる真剣味がうすらいでしまう。緊張感がなくなる。無責任になる。つまり人生の土台が根底からぐらつく。じぶんは なんのために生きているのかというところが。そういうことは、ひと(マーティやドク)がするのを見るのは おもしろいかもしれないけれど、じぶんではやろうと思わない。
世界のあちこちでロケしている豪勢な映画ですが、アマルフィの海を 二艘のカタマラン(双胴ヨット)が 水面を切り分けて滑空するように駆け抜けるシーンが いちばん印象に残りました。