ToscheYuki

TENET テネットのToscheYukiのネタバレレビュー・内容・結末

TENET テネット(2020年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

またしてもノーランの「時間トリックの沼」にどっぷりハマってしまいました。今作のトリックは時間の逆行。突拍子のない設定を理解する間もなく、迫り来る怒涛の展開。そしてIMAXレーザーGTの広大な視界と轟音。まるで劇場が、時間を縦横無尽に高速移動する船のようで、振り落とされないようしがみつくことで精一杯でした。重要なのは、無知であること。時間の概念、タイムトラベルの定説、展開の予想、といった余計なものを捨て、無知のままこの世界に向き合うことが正しい見方なのだと思います。

でも、なんとか理解できた。よかった(笑)
以下、感想詳細。前半はネタバレなし、後半はネタバレありです。

〜ネタバレなし〜

【物語】
独自の時間論の設定。これだけで広大なSF作品を作ってほしいほど。ですが、今作はスパイアクション映画です。ここがミソなのでしょう。正方向と逆方向の時間感覚と、そこに生じるスリリングさが活かされていた気がします。また、最後まで観ないとわからない辻褄や偶像劇が、初期のノーラン作品をも思わせ、とてもチャレンジングな作品だと思いました。

【映像と音楽】
これ、どうやって撮影したのでしょうか。逆再生映像とのマッシュアップ。しかしCGが、そこらのラブコメより少ないと言う。信じられない。メイキングを早く観たいものです。そして、映像と合わせてよく作り込まれた音楽。逆行するときは、音楽も逆行する。ドクター・ストレンジでもそうでしたが、こういうの大好物です。

【友情】
主人公とニールが描く、男の友情が美しく素晴らしい。これは映画史に残るバディです。兎にも角にも、ニールがイケメン。ニールがイケメン。男でも惚れます。緩いスーツカッコイイ。ニールのスピンオフが観たいです。



〜ここからは、ネタバレあり解説〜

【未来人】
時を逆方向に進めたい未知なる未来人。この存在だけで、前述のように広大なSF作品を作りたいレベル。彼らは、数十年、数百年、もしかしたら数世紀の時を経て、この計画を進めてきたことでしょう。そう思いたくなるほど、未来は絶望的で、生きるために彼らがとった最終手段だったのでしょう。しかし一方で、これによって死に至るかもしれない現代人。双方が双方向の時間軸の因果によって生死をかけて戦う。とても第三次世界大戦と片付けられないほど、とんでもないスケールの物語に脱帽です。

【時間の逆行】
今作は、よくあるタイムトラベルのように「時空」を超えるものではありませんでした。時間の流れは規則正しく一方向。ただし、「観点が変わる」と言うのが今回のトリックですね。面白いのが、もう一人の自分の行動によって翻弄されるといった、タイムトラベルの定番がないこと。一度は出会い戦うものの、武装越しなので対消滅はしないし、これはノーランらしい種明かしに繋がってたりしましたね。親殺しのパラドックスもなし。数十年当たり前だったタイムトラベルのセオリーを壊す新しい概念に混乱しながらも興奮しました(だからこそ理解できる範囲で収まってたのかも)。以下、仕組みの要約。

【エントロピー】
パワーワードすぎて翻弄されがちですが、本作では時間の方向を表す役割のみを担っていると思います。過去から未来に時間が流れる時、万物のエントロピーは増加していきます。つまり、エントロピーが減少すれば、未来から過去に時間が流れると考えられます。しかし、エントロピーが減少するマルチワールドが別に存在するわけではなく、万物のエントロピーは増大しています。それに対し、万物の一部が減少できるなら、不可逆ではなくなり、時間が逆行するということになります。

【反粒子】
重要なのは反粒子。反粒子の「観点」で見ると、この世界はエントロピーが減少して見えている。つまり、時間が逆行している。主人公たちは、回転ドアに入ることで反粒子化し、エントロピーが減少する「観点」でこの世界に存在することになります。しかし、万物は正粒子でできているため、物理法則は逆方向に働いてしまい、酸素は肺を通らず、火は凍ってしまいました。一方で、反粒子の観点で生成した酸素は、反粒子の観点でエントロピーが増加しています。それはつまり、反粒子で作られた酸素なのでしょう。これが満たされたボンベや空間では、エントロピーは増加するため、酸素を吸うこともでき、時間の流れを未来へ感じることができます。しかしこれらは、万物の一部の減少であるため、万物は未来へ向かっていることは変わらず、外へ出れば、時間は逆行して見えることになります。当然ながら、僕らが反粒子の酸素を吸うことはできません。とても人知を超えた設定ですが、そういうことなのだと理解しました。

【ニールの正体】
トランクスだったのか・・・!?つまり、ニールの正体は、マックスakaキャットの息子である可能性。来ました、インセプションのトーテム問題ばりの論争ネタが。マックスの本名はMaximiLIENということで、逆から読むと・・・。しかし、母親が撃たれ治療にあたるまでの冷静な様子は、本当に母なのか?と思うところも。トランクスなら必死ですよ。


これは、もう一度観に行くしかありませんね。ノーラン監督、いつも最高の映画体験をありがとう。
ToscheYuki

ToscheYuki