ymd

TENET テネットのymdのレビュー・感想・評価

TENET テネット(2020年製作の映画)
4.0
クリストファー・ノーランの神性が頂点に達してしまった1作である。

一度観ただけでは理解できないというキャッチの通り、非常に難解で複雑な映画だった。実際ぼくもほとんど理解できていないと思う。

ただし、この映画の最も問題な点というのは”もう一度観ないと解らない映画≠もう一度観たくなる映画”であるかというと微妙ということだ。これは個人の感想だが。

この必要以上に壮大で大風呂敷を広げてたストーリーと、製作者の独尊的で難解であるプロットに対してもう一度観たくなるかどうかは、冒頭の通り、ノーランの神性に心酔できるかとどうかだと思う。

CG嫌いを公言し極力使っていないという前知識を持った上で観ると確かに映像のアイデアの面白さ、迫力は素晴らしいものがある。

ただしCGが嫌いかどうかの個人的趣向はぼくにとっては寸分も興味がないし、CG使うことでより映画の面白さと訴求力が上がるのであれば使ってもらうに越したことはない。先行公開されて話題になってた飛行機ぶつけるシーンだって、CGじゃないと理解して見るから凄いが、普通に映画というジャンルの中で見ればショボい。

もちろんこの映画を観て凄い!と思うのは事実だし、一緒に熱狂する人の気持ちも分かるけれど、これはある種、ノーランと観客の間にある幸福な共犯関係で成り立っているというか。

結局はノーランというのはその異常な偏執ぶりと難解さをアートに見せ変えるトリックスター的な作家であり、今作はその手癖が最も悪い形で露呈した問題作というのが個人的な感想である。そのカルト的な性質の監督がここまで大衆に熱狂的に受け入れられることに違和感を覚えるが、それは『ダークナイト』や『インセプション』あたりからのファンの多さゆえだろうし、今作は良くも悪くもそのファン層をふるいにかけた感はある。

ただし、その異常な拘りの強さゆえに無二の作家性を持つことは明白だし、このコロナ禍において興行リスクを背負ったうえで公開に踏み切ったことも英断だと思う。そのあたりはクリストファー・ノーランという監督の矜持として受け取りたいし、今後も動向が気になる存在であり続けている。
ymd

ymd