岡田拓朗

TENET テネットの岡田拓朗のレビュー・感想・評価

TENET テネット(2020年製作の映画)
4.1
TENET テネット

過去から今に進んでいく順行と未来から今に進んでいく逆行が、現実で入り乱れながら徐々に繋がっていく。

同じ世界を入口と出口から見る感覚。
全てが地球で起こることの次元を超越し過ぎていたので、理解しようとするより、地球とは別の世界であることを前提にして、この映画を楽しんだ!

頭をフル回転しても話についていけなくなってしまいそうになるが、現実の見方が捉えられ始めると、それらが噛み合っていくのが快感。
特に後半の畳み掛けがやばかった!
常に頭を動かされながら行ったことのない境地に導かれたような感覚に陥った。

今地球の時間は戻ることなく進むということが前提となっていて、あらゆる分子は一つの場所に集中するのではなく散らばっていることが前提となっている。
タイムマシーンができたらとかそういうモノの次元の話ではなく、世界を司る上で今まで触れられてこなかった概念を覆した世界がこの映画には広がっている。

何かを理解しようとするとき、現実で起こり得る、または起こり得そうなことを、自らの今まで触れたことを総動員して必死に繋げようとするが、本作に至ってはそもそも現実に起こり得ない2つの時の動きが共存しながら話が進むので、現実的視点だけで理解しようとしても追いつかない。

それからというもの、この作品を理解しようとするのではなく、あくまで地球にはない新しい世界が一つ生まれたこととして、受け入れた段階からおもしろく感じられるようになった。

このおもしろさというものは、物語としてのおもしろさではなく、映し出されるものの斬新さや迫力、それらを含めたこの世界そのものに対してのおもしろさであり、物語自体はつぎはぎに感じられて、その部分に関しては何ともといった感じであった。
いや、そもそも物語自体にちゃんと繋がりがあったかどうかも定かではない。(ここは単に、自分の理解不足かもしれないが)

過去と未来から板挟みにしている現実が徐々に噛み合っていく感覚は掴めたけど、それでも物語としては地続きなってるように感じることができなかった。
これがみなさんが難解っておっしゃってる点なんですかね。

考察が色んなところで飛び交ってる辺り、思考の映画だとは思うけど、現実離れし過ぎてるから、個人的には「考える」よりも「感じる」にシフトした方が楽しめる作品なんじゃないかなと。

そう思う理由は他にもあって、そもそも物語を理解したところで、心に残るものはそこまでのものじゃないと感じたのもある。
それはドラマ映画的要素が薄く、あくまでまだ見たことのない世界を映し出すことに全神経を注いでいるように感じたため。

これは脚本に弟のジョナサンノーランさんが入るかどうかに依拠している部分ではあるだろうが、『インターステラー』と『ダークナイト』はジョナサンノーランさんが脚本に入ることで、ヒューマンドラマとしての見応えが足されているように思う。

ただし、クリストファーノーランさんが脚本まで手がけている『メメント』と『ダンケルク』は、確固たる人間ドラマが描かれているというよりは、そこにしかない世界が映し出されている傾向が強いため、内容を理解してもその先にあるのは凄いや圧巻の言葉のみに陥り、そこに感動や心が打たれる感覚は生まれにくい。

これはクリストファーノーラン監督の作風・映し出したいものがそれなのかなと思っていて、そこに合うかどうかも、彼の作品を楽しめるかどうかのポイントになってるんじゃないかなと。

そういう意味でもクリストファーノーラン監督は、改めて唯一無二だなと思ったし、地球のあらゆる概念を超越する世界を、モノの見事に形にしていくのが本当に圧巻だなと感じた。

未知、未体験、未感覚、非現実。
彼の作品には、現実世界と一線を画しているという意味で、「未」や「非」の言葉がよくハマる。

全て把握できたとは全然思えなかったけど、この世界を体感することができただけでも観てよかった。
岡田拓朗

岡田拓朗