こうみ大夫

TENET テネットのこうみ大夫のレビュー・感想・評価

TENET テネット(2020年製作の映画)
3.9
歴史とは何か。現在と過去の対話である。物理学満載なこの映画に、史学で最も有名な言葉の一つであるエドワード・カーの一節を敢えてぶつけてみる。
幕があけると「2度見たけどあそこがやっぱ分かんない」と言う馬鹿な客どもが騒いでいる。そもそも2度見るような作品じゃないし、ノーランもはっきり答えを出してくれてなんていない。試験問題で「歴史とは何か」と出題されて「あの参考書に書いてあったあれとあれを書いたから多分合ってるよね?」と言ってくる阿呆と同じだ。
分かることは、過去、現在、未来のそれぞれで壮大な挟撃作戦なるものが行われていること、それだけだ。私たちはそのほんの一部分を見ているだけで、一体何が起きてるのか何が解決なのか本当のところ分からない。分からないがある主義、ここでは“tenet”に基づいて、その主義の中における地球の救い方をしているに過ぎないのだ。現在を滅亡させることで良い思いをする未来の人間もいれば、現在を滅ぼさないで欲しいと思う未来の人間もいる。過去に対しても同じであり、ここでは物理的に消去する世界観だが歴史学においては解釈の中で消去される世界だ。
思ったのは、逆行する必要があるのかということ。単純にタイムスリップしましたでは駄目なのかと。まぁ映像的に、芝居でタイムスリップを表現するだけにならない方法がノーランには合っていたんだろう。あとインターステラー、ダンケルクの時にあったようなテンションの昂ぶりはやや抑えめだった。ノーランも歳なのかな。
まぁ少なくとも二度も三度も観る映画ではない。過去も未来も分かったような気になったけど、自分がどうして現在置かれてるかなんてやっぱりよく分かんないでしょ?そんな当たり前のことを当たり前じゃない予算感で見させられてる、それだけの映画。
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