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空の青さを知る人よのtakのレビュー・感想・評価

空の青さを知る人よ(2019年製作の映画)
4.1
映画でもアニメでも「泣ける」という宣伝文句や感想が嫌いだ。それはほめ言葉でもなんでもない。観る側の勝手だ。泣きたきゃ泣けばいいし、冷めた視線を貫きたければそうすればいい。だけど"泣ける=優れた感動作"という図式を世間は求めたがる。どこがどうよかったのかも述べずに、「泣ける」ひと言で売りたがる輩がほんっと嫌いだ。どこで泣けるかなんて人それぞれだもん。僕なんか、オス犬が海を渡ってメス犬に会いに行く「マリリンに逢いたい」の予告編だけで泣いたぞ(笑)いいじゃん、何で泣いたって。

それにつけても、長井龍雪作品、岡田麿里脚本の作品にはほんっと泣かされる。「あの花」は毎回ティッシュが手放せなかったし、「鉄血のオルフェンズ」もモビルスーツの激しいバトルを見ながら胸が潰されるような気持ちになっていた。この「空の青さを知る人よ」は、基本青春映画だからきっとそんなことは…とたかを括っていた自分を反省。このコンビの映像作品で毎回胸が苦しくなるのは、きっと観ている自分が"大人"だから。

高校時代の姉が付き合っていた慎之介に憧れていた葵。そんな彼女の前に、当時と同じ姿の"しんの"が現れた。そして夢を追って東京に出た現在の慎之介も、葵と姉あかねの前に現れる。不思議な四角(三角?)関係が展開される。

しかし話はそう簡単ではない。葵と同じ10代でこの映画を観たら、きっとファンタジー描写や強がりな葵の真っ直ぐさに感動できることだろう。でも、大人目線で観るとハッとさせられる場面がいくつもある。東京に行かないというあかねの選択。葵はそれを自分が姉を縛りつけたからだと信じている。でも地元の市役所で働く彼女が、何故その道を選んだのか。卒業アルバムにあかねが書いたひと言、
「井の中の蛙大海を知らず。されど空の青さを知る。」
その言葉が彼女が進路を決めた答えであり、それが後半の伏線になっているのが見事。
「違う曲を歌って欲しいんだけどな」
あかねが慎之介にその曲名を言う場面で涙腺決壊。思わず一時停止ボタンを押して呼吸を整えた。映画館で観てたら「あっ!」て声出してたかも(恥)。いや、それもよかったな。どんな思いで慎之介はその曲作ったんだろ。

東京に行けば、大人になれば夢が叶うかもという10代の気持ちを、ゴダイゴの名曲「ガンダーラ」を引用して表現するのはうまい。若い世代なら歌詞をそのまま受け取るだろうけど、いまさら青春映画なんてね…と言いがちな僕ら世代はそのノスタルジーで心を掴まれて、葵やしんのが口にする10代の気持ちを受け止められる心の準備が整っていく。
「あの頃なりたいと思ってた大人になってんのかよ!」
このひと言は、大人にこそ噛み締めて欲しい。10代でこの映画を観たならば、大人になってもう一度観て欲しい。きっと響きが変わるから。

あいみょんのタイトル曲、エンドクレジットで流れるキャラクターの名前を冠した曲が素晴らしくって。しんのが呪縛から解放されててからのファンタジックな場面と展開に、「あー、今どきのアニメになったな」と意地悪な気持ちになってるくせに、サビの歌詞が胸に突き刺さって気づいたら泣いていた。

いいじゃん、何で泣いたって。
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