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空の青さを知る人よのumisodachiのレビュー・感想・評価

空の青さを知る人よ(2019年製作の映画)
3.9
秩父を舞台にしたアニメ映画。他に2作つくられているのだが、他は未見。

高校生のあおいは、役所につとめる姉あかりとふたり暮らし。彼らの両親は13年前に事故で他界。高校生だったあかねは進学も諦め、妹の面倒をみていた。あかねの高校時代の恋人・慎之介はミュージシャンを目指して上京したため、ふたりはそれっきりになっていた。あおいは慎之介の影響もありベーシストを目指し、上京することを決意。そんなある日、あおいが練習場にしていた場所に13年前の慎之介が出現する。あおいは幽霊かと思ったが、本物の慎之介は地元を訪れる大物演歌歌手のバックバンドのひとりとして村に帰ってきていて……。

高校生のあおいの目を通して、秩父の内と外、過去と現在に引き裂かれたあかねと慎之介を描いた作品。時間と空間を隔ててそれぞれの場所に取り残されたアラサーの男女が、次の一歩を踏み出すまでの心情を丁寧かつリアルに表現している。

あおいの保護者としての自分と、ひとりの人間としての自分との間で立ち止まっているあかね。周囲は無理やり未来へ顔を向けるようにあれこれ言ってくる。それなりに居心地が良い環境の中で思考停止している感じはあるが、後悔しているわけでもないからハッキリとした焦りもない。ただ、なんとなく時が止まっている感覚。靄の中にいるようなあかねの心情の描き方が上手い。彼女の言葉ではなく、彼女を見ている周囲の人々(とりわけ妹であるあおい)の視線が、あかねの心理状態を克明に描写していく。

思春期真っただ中であり、初恋を経験するあおいの複雑な感情の推移も瑞々しく描いていく。本作の主人公あおいは、子どもから大人になる。といっても、恋愛メインの話ではない。子どもならではの狭い視野から、大人としてのもっと広い視野を獲得するのだ。その視野の広がりが、終盤の空のシークエンスに集約していく。一気に世界観が広がるクライマックスの青空シーンは必見の出来。

過去の慎之介と現在の慎之介の対比も良かった。高校生の慎之介は男女の差なくフラットに物事を考えられているのに、今はすっかりミソジニーおじさんになっていたりとか。慎之介が失ったものが何なのかを、言葉による説明なしに際立たせているのだが、それがどれも普遍的なものばかりで。社会生活を営んでいくに連れて、人がいかに差別意識や社会的なバイアスを内在化してしまうのかを示すとともに、それはいつだって払拭可能なのだだということも示しているように思えた。

欲を言えば、音楽をモチーフにしているので、もう少し音楽的な要素を強調しても良かったかな(それにしても、なぜ「ガンダーラ」なの?)。あ、あと慎之介の声(実質2役)を演じている吉沢亮がとてもとても良い!かーなーり上手!今まで、俳優が声優をすることがダメだと思っていたのだが、違うな。ちゃんとできる人はできるんだな。やるなら吉沢亮くらい本気でやれ!というのが正解。あの美しい顔面がない分、彼の力量が分かりすい。ちょっとすごいですよあれは。

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