前半と後半で感情移入する人物が変わる映画は初めて。
天才形成外科医のロベルは、妻を失なった。
その現実を受け入れられず、人形のような空虚の妻を作り上げる。
偏愛の物語。
そんな感じだと思ったら、全然違う切り口からズバッ!とくる展開!
構成がめちゃめちゃ好き。
ある人物を軟禁し、段々とロベルに心を開いていく。
ハッピーエンドに差し掛かろうとした時。
6年前にさかのぼり、その人物が誰なのか明かされていく。
全て見終わった時、前半部分の感想を引っくり返される。
考察が楽しく、ラストに悲痛な涙が流れる。
ここからネタバレします!!
この映画の最大の謎である。
ロベルがなぜ娘を強姦した男を妻そっくりに作り上げたのか。
妻と娘を失い、正常ではない精神だったロベルは、
妻に会いたい。と思い始めた。
そうしないと、自分が壊れてしまう。
だから自分の技術を駆使し、妻を作ろうと考えた。
というのが一つの理由である。
しかし、
それならば、
肌が荒れた女性の患者の手術した方が簡単であり、ロベルの精神的ダメージも少なく済むと思える。
なぜビセンテだったのか、
それは復讐という理由がある。
しかし、それだけならば、トラのように容赦なく殺せばいい。
トラがベラを犯している時、最初にロベルが銃口を向けたのはベラだった。
それは人体実験に対して脅されていたし、ロベルの中で、倫理観の葛藤があったに違いない。
しかし、外見が妻のベラを殺す事は出来なかった。
あのシーンはあまりに複雑な感情がロベルの中で生まれただろう。
トラは妻を殺し、ベラは娘を殺したも同然だからだ。
最愛の人を殺したもの同士がセックスしているシーンは結果的に外見が命を左右した。
ビセンテを監禁し、水だけを与えるシーン。
人間が水だけで生きられるのは2、3週間と言われている。
そして、あの量の水を飲むとすれば、監禁は1週間はあったと思える。
そこに疑問を感じた。
ロベルは最初からビセンテを妻のように手術しようと思っていなかったのではないだろうか。
捕まえたものの、どう復讐しようと一週間程考えた結果、
人体実験をやりたかった。
精神的に追い詰め復讐したい。
そして、妻に会いたい。
いろんな条件が揃った事が、
妻を作り上げる結果となったのだろう。
最初はただ見るだけで良かったが、
ベラがまた自分のものではなくなってしまう恐怖に駆られ、
抱き締める。
恐らく初めてベラとセックスしたのはトラを殺した後だろう。
元々いろんな大きさの棒を入れさせていたのは犯される側の気持ちを分からせる為かと思ったが、それだけではなく。
やはり、ロベルの中で見て話すだけでは物足りなくなってしまったと感じた。
つまり、計画的にやった事ではなく、
ロベルは妻に会いたい、抱き締めたいと思い始め、娘ではなく、妻に似た人間を作ろうと考え、
復讐というきっかけが背中を押したのだろう。
ラストに、ビセンテがヨガで守ってきた、誰にも触れられない自分を引き出せた事、
そして、自分と分かってもらえるワンピースを着て帰ってきた事に感動する。
この映画は、知らぬ間に伏線を張っている。
時系列としては現代で伏線を張り、過去で回収するという普通とは逆の構成でありながら、ストーリーが進むに連れ、ラブストーリーからスリラーへと変わってく様がスムーズに描かれている。
映像美と神に反した報いを受けるストーリーが相まって、
美しく恐ろしい偏愛の悲劇を上手く表現している。
ロベルは形成外科医、ビセンテは洋服店と、外見を取り繕う仕事をしていた。
結果的に自分の自我である内面を守り抜いたビセンテに軍配が上がった。
個人的に好きなシーンは、
ビセンテが女性服を引きちぎり、掃除機ですいとるシーン。
恐怖を通り越した域の心情を、リズミカルに演出するシーンは狂気じみていて素晴らしかった。
この映画は様々な考察が出来る、
この上ない狂気の一本になった。