のら

うさぎドロップののらのレビュー・感想・評価

うさぎドロップ(2011年製作の映画)
3.5
松山ケンイチの朴訥とした感じと、芦田愛奈の過剰な背伸び感がすごくマッチしたコメディ映画に仕上がっている。

原作との変更点としてはクライマックスのエピソードが完全オリジナルに変更されているのと、前田春子関連のエピソードがバッサリカットされている(れいなも登場するが親戚のモブ扱いに収まっている)。それに加え二谷ゆかりの設定が変更されたり、吉井正子のキャラ付けが若干変わってしまった点が挙げられる。

特に二谷ゆかりの設定を変えてしまったのが、この映画のマイナスポイントになっている。二谷ゆかりの職業がモデルに変更になった事、演じている香里奈から所帯じみた感じがしない為に、この二谷ゆかりという母親に生活感をまったく感じる事が出来なくなってしまっている。

また松山ケンイチと香里奈のダンスシーンは松山ケンイチのぎこちなさが目立つだけになってしまっており、正直「それいるの?」という感じしか受けない。特に伏線になる感じもしない演出だったので余計に必要無いと思わざるをえない。

クライマックスではリンとコウキが家出という名の小さな冒険をし、大騒動を起こす。しかしそこで出てくるある登場人物が、さすがにそれは都合良すぎるにも程があるという展開で、話の終わらせ方としては成立しているし、上手い撮り方だと思うが、あれは少し意地悪過ぎる演出だし、映画オリジナルのクライマックスのトーンとテンションが原作ベースの前半と明らかに乖離してしまっているのには若干の疑問を感じる。

しかし全体を通して、ギャグがしっかりとハマって観客をちゃんと笑わせる事ができるというのは見事で、ただ感動させるだけの映画とは違うことを証明している。またグレインノイズを強めにしたファーストカットは、すごく絵になっている。芦田愛奈を連れて歩くスーツ姿(喪服)の松ケンという構図は、松ケンの気肉質も加わってレオンのようで様になっている。

また主人公の同僚たちの過剰なイチャつき感が、明らかに映画のバランスをおかしくしているが、ここもコメディーとしてしっかり機能している。

ただやはり香里奈はミスキャストだと思うのと、吉井正子のキャラクターの変更は明らかに間違いで、吉井正子という人間はりんへの罪悪感を仕事に没頭することで解消しているというキャラクターだったわけなので、あの時点で泣いて母性をくすぐられたような描写はするべきではなく、むしろ頑なにならせるべきだった。
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