ふじこ

ひとよのふじこのネタバレレビュー・内容・結末

ひとよ(2019年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

ある事件により家族がバラバラに…それから15年、って事だけ読んで視聴。

冒頭でいきなり母親がタクシーで男を轢き殺す。
それから疲れた様子で家に帰って、お母さん話があります。お母さんさっき、お父さんを…殺しました と告白する。
車ではねてね 殺した…と。
誰も悲しまないように夫の父と母が死ぬまでずっと待ってた
あんたたちを傷つけるお父さんだから お母さん やってやった!
これから警察へ行く、学校や生活の事は親戚に任せたから大丈夫
どれくらい刑務所に入るか分からない、刑期が終わってもすぐには帰れないと思う
ほとぼりが冷めるまで…15年経ったら必ず戻ってきます
もう誰もあんたたちを殴ったりしない
これからは好きなように暮らせる、自由に生きていける
何にだってなれる
だからお母さん、今すっごく誇らしいんだ

と言って、親戚の人?に連れられて家を出て行く。
どうやら暴力的な夫だったようで、子供たちは全員怪我をしている…が…。
いや…いやいや、何の相談もなしに?被害者家族だけど加害者家族だよ!人殺しの家族になっちゃうんだよ…!
な~~~~~にが 誇らしいんだ だよ!何にだってなれる訳ないじゃん、母親が人殺しだぞ!
余りにも独り善がりすぎてびっくりしたわ。先に子供たち全員連れて逃げ出すとか、シェルターに非難するとか、証拠を集めて警察に行くとか、そういう行動はしたのか?
加害者の家族がどうなるか何の想像も調べもしないで突然殺して、やってやった!って…。
とんでもなく愚かな母親の自己紹介、っていうフックなら見事に引っ掛かるわ。バカすぎる。

で、15年経って長男は何処かの会社の専務で離婚の危機、次男は東京でエロ雑誌のライター、長女はスナック勤務で毎日酔い潰れる…と全員それぞれに影のある感じになっている。
次男も母帰るの連絡を受けて帰ってくるものの、何処かからの嫌がらせで貼られた張り紙や母親の姿を撮影して記事にしようとしているのを見つけた長女が長男と一緒に話し合いをしようとするものの、母親だぞ と言う兄に、実際に殺人者を他人がどう見るかを自分たちでは決められない、そんな事も考えずに3人を置いて父を殺していなくなって、自分は禊済ましたつもりで帰ってきて、冗談じゃねえよ と至極全うな事を言って喧嘩になる。

長男は母の事情が妻にバレて、ただでさえ肝心なところで黙りがちで妻は私たちも家族でしょう!と不安から来る不信で不仲になっているところでやっぱり長男は突き放すような事しか出来ないし、母は立派だから父のように妻に手を上げる俺を殺すか?と飛躍し、長女はお母さんはあの人からわたし達を助けてくれたんじゃん!と主張し、それで俺達どうなった?と返す長男に、次男は結局兄ちゃんも憎んでんじゃん と返す。
兄弟それぞれ、母が父を殺したと言う現実の続きがあって、それぞれの思いがあって、一番幼かった長女がどうしてそこまで母親を庇うのか…が分からないのだけれど、当事者的視点が必要なんだろうなぁって…。
母は母で、会社の新人ドライバーが元妻の元にいる息子に会った話から、罪を犯しても子供の為だって自分を疑ってない強い人です と言われ、今自分のした事を疑ったら、わたしが謝ったら…子供たちが迷子になっちゃう と言い、自分の事を立派だという長男に、15年以上前に次男が万引きしたデラべっぴん(エロ本?)をわざと分かるように盗んで、これでも立派か!と開き直る。

長男は兄弟だけの場で、母さんは母さんのままなんだから俺達が変わらなきゃ、と言い、長女は変わらなくても良いんだよ、お母さんが帰ってきたんだからもうそれで良いって事にしようよ と言うものの、次男はあれから15年だぞ、何も変わんねえよ、あの夜話した夢からみんな逃げらんねーままだ と立ち去っていく。

はるか昔に母親からプレゼントされたレコーダーに、あの日母が父を殺した告白が未だに録音されたままなのが悲しいなぁって。
どうせ父親は泥酔してたんだし、フラフラっと車線に飛び出してきた的な過失を主張すれば良かったのになぁ。

……と、思いながら後半、冒頭の方でタクシー会社に就職した元ヤクザの佐々木蔵之介が元部下の大吾(芸人)の指示で運び屋を乗せたら、それが実の息子で…その後どうなったのか知らないけれど飲酒してタクシーを乗り回し、何でか知らんけど母親を乗せて暴走、兄弟3人でタクシーに乗って追跡、一緒に死のうと強制してた佐々木タクシーに追突して止めさせ、母を突き飛ばした佐々木に誰に手ぇ上げてんだオラァ!と次男がドロップキックをかまし、佐々木は次男 失敗したら親のせい!全部俺が悪いってか!と掴みかかり、起き上がった次男が佐々木の肩を掴んで気持ちを吐露する。

書いちゃダメだって分かってたけど、レコーダーに残されたあの日の会話全部を書き起こした
母さんの声が何度も聞こえてくる、これからは好きなように暮らせる、自由に生きていける、何にだってなれるって
親父殺してまで作ってくれた自由なんだよ!
と泣きながら語り掛ける。
どっからやり直したら良いのか教えろよ!と佐々木に掴みかかる次男に、その人は親父じゃないよと剥がす長男。
父さんだってあの夜はどんなに嬉しかったか…としがみつく佐々木に、あなたの息子じゃないんだ…と声を掛ける。

あの夜はなんだったんだ…と嘆く佐々木に、ただの夜ですよ と返す長女。
自分にとって特別なだけで、他の人からしたらなーんでもない夜なんですよ と母が言う。
でも自分にとって特別なら、それで良いじゃない。

それから、母の事を書いた記事や写真を削除する次男。
長女は、夢だった美容師を母が父を殺した話が噂になって専門学校を途中で退学してしまったが、母の髪を切る事にする。
兄弟揃って中庭に出て、感慨深そうに何処かを眺めている母の背中を見詰める。
そして次男は東京に戻る事になり、勧められるまま写真を撮り、実家を去るタクシーの中で複雑な表情をしている次男のカットで終わり。

いや~~~~、佐々木蔵之介が元ヤクザで息子がシャブ中…みたいなとこ必要なんかなぁ…って思ってたら、最後今は亡き親父に見立てられるとはねぇ。佐々木の暴走辺りから あ~、そうですか……とめちゃくちゃ真顔で眺めてたんだけど、その後の母の髪を切ろうとするシーンからの巻き返しが凄かった。
この手のヤツで兄弟3人のそれぞれ気持ちの置き場所が違う部分はとても良かったのだけれど、後はどうエモい感じにするか、どうやって訴えてくるのかなってところだと思うんだけど、佐々木エピソードは親が殺人者って部分とはまた全然違うけれど縁遠すぎて、まぁ…親の因果が子に報いって事じゃないですかね……みたいな気持ちになっちゃうので、もっと別方向で展開するかただただ内容を濃くしてくれた方が良かったかなあ。

わたしはこの母の子じゃないし、兄弟の事はどんな親でも無条件に愛して愛を求める被虐待児みたいだなって思ってたし、母親の事は最後まで自分の選択を子供に押し付けたエゴの塊だと思ってたんだけど、"子供から見る親"っていう何万通りもあるような感覚の殆どが、老いた母が庭を眺めるあの背中に集約されているような気がして思わずぐっときてしまった。ほんとクソ親過ぎるだろがい と思っていたのに。
めちゃくちゃ心揺さぶるじゃん…、どう考えても佐々木のターンはいらなかったくせに、最後が良すぎたわ…。

演者の面では、筒井真理子が60近くても普通に可愛くてエッチでびっくりするし、田中裕子の黒目がちすぎるしじみ目はすごくそれっぽくて良いし、CMくらいでしか観たことなかった佐藤健(たける)はそんなに悪くないんじゃないかって印象で観終わった。
ただ大吾は酷すぎたので、安易に芸人を出さない方が良いと思う。上手い人は上手いんだけどな、古畑の明石家さんまとか元芸人の宮迫とか[ 龍が如く ]でいい演技してた。
ふじこ

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