EDDIE

ひとよのEDDIEのレビュー・感想・評価

ひとよ(2019年製作の映画)
5.0
家族のために下した母の大きな決断。愛故の行動が3人の兄弟たちの人生を大きく狂わせる。15年ぶりに帰ってきた母と交わる一家。その再生の物語。

本作は近年大忙しの白石和彌監督の自信作。『狐狼の血』で一躍脚光を浴び、今年香取慎吾主演『凪待ち』という傑作も生み出した実力派監督。
「凪待ち」は大変シリアスな作品でしたが、基本的にシリアス重視の作品ながら上手い具合にユーモアを織り交ぜるのが私にとっては好印象です。本作も実にそのシリアスとユーモアのバランスが優れていました。

まさに私にとっては今年随一の傑作となりました。映画開始の序盤から終盤まで終始泣きっぱなし。こんなに一つの作品で泣き続けたのは久しぶりかもしれません。

私ごとではありますが、実はこの稲村家と家族構成が似ていて、私は高校生の頃に父親を亡くしているので父親がいません。そして、母のほか、姉と兄と私の3兄弟。稲村家は松岡茉優の演じる園子が末っ子なので多少のズレはありますが、母+男2人・女1人の構成が同じということでかなり感情移入してしまったんですね。
しかもこの作品の素晴らしいところは稲村家だけでなく、経営するタクシー会社を軸にして、事務員の柴田弓(筒井真理子)の認知症の母との関係性を描き、さらには新しく入社した堂下道生(佐々木蔵之介)と息子の関係をも描きます。この堂下と息子の境遇が彼ら稲村家にも大きく影響することとなります。

これだけの登場人物がいながら、きちんとバックボーンを示し、しかも説明セリフなどで語りすぎることもなく、突散らからないことがお見事でした。
その中でもやはり軸となるのはこの3兄弟。実家の茨城から東京へ移り夢である小説家に向かって日々懸命に働く次男の雄二(佐藤健)、生まれながらの吃音により妻との接し方に苦労している長男の大樹(鈴木亮平)、夢の美容師を諦め地元スナックで働く長女の園子という3人が見事な演技力を発揮し、物語の深いところまで感情を揺さぶられてしまいました。

また15年の時を経て、家族のもとへ帰ってきた母・こはる(田中裕子)が確固たる意志に満ちた強くあろうとする感情を素晴らしい形で演じていました。
突然帰宅してきた母にどのように接してたらよいかわからない子供たち。その微妙な感情表現を彼ら3兄弟は自然に演じていたのが印象的でした。
ほかにも稲丸タクシーの現社長である丸井進(音尾琢真)や従業員・歌川要一(浅利陽介)、大樹の妻・二三子(MEGUMI)らもとても良い演技を見せてくれました。

なんというか家族ってどんなことがあったも結局のところ簡単に縁を切るなんてことできないと思うんです。もちろん家族ごとに様々な事情があるので、一概には言えませんが、この物語は一度離れ離れになってどこか他人行儀な彼ら稲村家も「ひとよ(一夜)」のきっかけにより互いの踏み込む瞬間というのを牽制しあっていたんじゃないかなと。
私が一番最初に心をえぐられたのが母こはると次男雄二の距離感です。彼らは親子にも関わらず、そして母の犯した重大事件は子供たちを救うためであった大きな決断だったにも関わらず、2人の座る間の距離がかなり離れていたのがとても辛くて…
終盤の家族がタクシーもろとも心と体でぶつかり合うシーンはもう嗚咽が出るほどもうボロボロ泣いていました。

ちょっと感想が散らかってまとまりがありませんが、とにかく作品の内容、演出、俳優陣の演技どれをとっても最高でした。
もしかしたら私の人生においてもかなり心に深く刺さった作品の一つになりうるかもしれない傑作です。