ShojiIkura

ひとよのShojiIkuraのレビュー・感想・評価

ひとよ(2019年製作の映画)
3.8
 最後まで、あの嫌がらせは誰がした?父が家族に対しモンスターだった時期に社長らは何をしていた?などの疑問に答えは用意されていない。多分それはこの親子兄弟関係のすべてはさらけ出せないということに繋がっている。理解は私たちの想像で補完する映画なのだろう。

 印象に残ったシーンとして、雄二が母の殺人をネタに記事を書こうとしたことが兄弟にばれた時に大樹が「母さんなんだぞ」と言うシーンと、大樹が母に「母さんは正しい人だ」と言ったことに反発して万引きをしし、「正しくなんかない」と母が胸を張ったシーン(+それを見た雄二が回りくどい表現の母をめんどくせぇと言ったときに丸井社長が「いいじやねぇか」と言ってはっとさせられたシーンも含む)は、兄弟たちに認識されている母と、実像の母とのズレを如実に表すとともに、その万引きのシーンを経て、兄弟たちもズレに気づいたのかな、と思う。もっと言うと親子はズレがあるのが当り前、揺るがない愛があるか否かを見据えるべき、という方向に転換した瞬間だと思う。父を殺し兄弟を守った母の帰宅を、甘えられる喜びに素直にしたがった妹、殺人という残虐な行為を僕らを守る正義の行動と正当化することでわだかまりを覆い隠そうとした理屈防御の長男、本当に母が必要なときに去られた辛さから母の正しさを偽善と突き放して自分を保つしかなかった次男、それぞれが、万引き以降、母の真にあるものを覗けたのではないか。
 俳優たちの名演もあり、とにかく引き込まれた。
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