けーすけ

ひとよのけーすけのレビュー・感想・評価

ひとよ(2019年製作の映画)
3.3
2020/08/01(土) TSUTAYA DISCAS単品レンタルにて鑑賞。

2004年5月23日夜の出来事。日頃から父親による壮絶な暴力を受けていた3人の兄妹たち。タクシー会社を経営し運転手でもある母親はそんな父親から子供を守る為に、車で轢き殺したのであった。「これであなたたちは自由。何にだってなれる」そう言った母親は15年後にまた戻って来る事を伝え、自首をしたのだった。
それから15年後、2019年の同じ日に約束通り母親は帰ってきたのだったが、事件と月日が生み出した軋轢はとても大きなものであった。親子の関係はどうなるのか・・・










長男の稲村大樹役を鈴木亮平が演じ、次男の雄二を佐藤健、そして長女の園子は松岡茉優という、実力のある役者陣がヒリついた空気を醸し出してます。もうこの3人のやり取りの緊張感や自然なテンポの演技、見事過ぎました。そして母親のこはるを演じた田中裕子の存在感も素晴らしかったです。



事件からちょうど15年経ったその日の夜、フラっと帰ってきた母親は大樹と園子を抱きしめ、息を大きく吸い込みそして吐き出す。これだけで時間の重みをビシっと放っていて、凄く良いシーンでした。

母親も本当は「15年も経ったのだからみんな待ちわびてくれてるかな」っていう気持ちがあったのかもしれません。ところが子供たちは15年前のあの日に“殺人者の子供たち”になりずっと過ごしてきたわけで、様々な嫌がらせを受けた日々があり、あの時の「何にだってなれる」という言葉が、兄妹達の夢を途絶えさせる呪縛のようになっているように感じました。


そんな母親は事件を起こした事を悔いたりするそぶりは見せませんが、やはりどこかで子供たちの人生を変えてしまったのかと逡巡しているようにも思えました。
特にDV環境で育った子供が大人になった時に、やはり同じように暴力的なってしまう可能性が高いという見せ方も重く、何が正しかったのか、家族の繋がり方や関係性の構築する難しさを考えさせられましたね。


父親によるDVシーンを佐藤健がフラッシュバック的に思い出した感じで描写するシーンがあったのですが、そのシーンが壮絶すぎて演技といえ子役が怪我しないか心配になるレベルでした。この部分は怖いし凄かったですね。



あと、佐々木蔵之介がタクシー会社に堂下という役で新人ドライバーとして入ってきて、少し群像物語としても描かれます。演技、存在感はいわずもがなで安定なのですが、息子とのエピソード後半部分はちょっと無理やり感があったかな、、、と。でも佐藤健のドロップキックが見られるので、終盤は注目です(声に出して笑ってしまった)。




全体的に重いテーマではあるのですが「デラべっぴん」という、恐らく今の30-40代あたりの男性がお世話になったアダルト雑誌が出てきたくだりはちょっと笑えましたし、2回目の「デラべっぴん(復刻版)」が出てきた時はその雑誌について会話する3兄妹の空気感が超よかったので「デラべっぴん」は偉大です。笑



佐藤健、今作で笑顔のシーンあったかな…?ていうくらい、ひたすらに希望を失ったやさぐれ感が出てましたね。新しいたけるが見られた気が。

鈴木亮平も吃音もちという難しい役どころですが、温厚そうだけど感情を爆発させたシーンは見てて怖いくらいに鬼気迫る熱演でした。凄い。

松岡茉優、スナックで働く「いそうだなー」って感じのちょっとスレた女の子を自然体に。スナックでカラオケで歌っているシーンの選曲も本作を象徴している感がありますね。それにしても松岡茉優がいるスナックだったら週8で通ってしまって破産します!!個人的に彼女は今の日本のトップクラスの女優と思ってます。




「よくこれで事件から15年潰れずやってこれたな」という感じのタクシー会社が気になったりとか、佐々木蔵之介のエピソードや深夜徘徊のおばあちゃんの話など、少し強引に繋げた感を覚えましたが色々と考えさせられる良い映画でした。


[2020-119]
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