ラウぺ

どん底作家の人生に幸あれ!のラウぺのレビュー・感想・評価

3.8
ディケンズの自伝的小説「デイヴィッド・カッパーフィールド」を元にした映画化。
作家となったデイヴィッドは聴衆の前で自作の自伝を披露する。自分が生まれたときから今日に至るまでの波乱万丈の日々をさまざまな人々との出会いを通して描いていく・・・

冒頭の語りの場面からいきなり誕生の場面に本人が登場したまま繋ぐ驚きの展開はほんの序の口。母のお産の場面から大叔母の登場してくるくだりの目まぐるしさは冒頭だけかと思いきや、物語全編がこの驚くべきスピードで展開していきます。
多彩で全て個性的な登場人物が次々に現れ、どんどん話が進んでいく展開に慣れていないと、話がどういう方向に向かっているのか分からなくなったりするのですが、原作にある要素を過不足なく取り込んでデヴィッドの人生の輪郭を俯瞰できるようにするために意図されたものだと思います。

監督の前作『スターリンの葬送狂騒曲』ではシリアスな物語をコメディで描くことで笑いのツボに嵌らないと作品世界になかなかのめり込めないところがありましたが、現実離れしたデヴィッドの物語とこの手法は親和性が高く、コメディ要素が阻害要因になる心配はないと思います。

デイヴィッドをはじめ登場人物たちは血のつながりの有無に関わらずなんの脈絡もなくさまざまな人種で構成されており、観る者を混乱させますが、これはあえて人種的垣根を打ち壊し、肌の色や外見に人としての違いなどない、ということを強調したいという意図なのだと思います。
この先なんでもこの方向性が良い、ということではないと思いますが、本作について言えば、個性的な登場人物たちを更に多彩なバリエーションとして楽しむことに貢献しているのは確かでしょう。

目まぐるしい物語展開になんとか付いていって、そろそろ終わりというところにきて、そういえばこれはデイヴィッドの自伝の物語なんだったっけ、というエンディングが用意され、登場人物たちへの優しいまなざしが溢れるところは、この波乱のドタバタ物語がディケンズにとってやはり特別の物語だったのだろうということが窺われるのです。
観終わってなんだか足元が覚束ないほどに疲れましたが、おそらく繰り返し観る事で更に良いところを見つけることが出来る、愛すべき作品だと思います。

例によって最悪邦題の溢れる中にあって、この邦題に悪意はないのかもしれませんが、あまりにも本作の意図するところとかけ離れ、本来この作品を受容すべき客層に正しく伝わらないという点で、最も酷いものだと断じざるを得ません。
何回も書いていますが、映画の内容を歪めるような邦題を付けてしまう業界の悪癖は観客の知的レベルをバカにしているのと同時に、映画文化の普及に害悪しかもたらしません。
配給側の猛省を促したいところです。
ラウぺ

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