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9人の翻訳家 囚われたベストセラーのogoのレビュー・感想・評価

3.2
最初に言っとくと、『ダ・ヴィンチ・コード』シリーズでは無いです。

日本版ポスターが誤認させるけれど、あくまで『ダ・ヴィンチ・コード』シリーズの『インフェルノ』翻訳時に、実際に軟禁状態での翻訳作業があったことに「着想を得た」というだけ。

で、今作。地下シェルターでの翻訳作業に至るまでの翻訳家が続々と集うシーンとか、さてその密室空間で何が起こるのか?くらいまでの序盤の期待感は良かったのだけれど、全体的にテンポが悪く、ラストに種明かしがされてみれば(と言っても割と序盤で読める)何とも納得感の薄い仕上がり。

密室の内と外、そこに時間を加えてのトリックを構築しているものの、内にはトリックは何も無しで正に行き当たりばったり、外のトリックもこちらも随分と乱暴な手法の上に必然性が無い。

ラストを迎えて振り返ってみれば、何故そんなに回りくどくリスキーな手法を選んだのか、リスキーであるだけでなく、実際に想定外の無関係な犠牲も出してしまっていることが救えない。カタルシスに身を任せたい種明かしシーンで、いやちょっと待てよ?と疑問符だらけで全く没入できずに終わった。

せっかくの密室シチュエーションを全く活かさない残念感に、目的を達するために他にやり方はいくらでもあったんじゃないだろうか…という疑問、どうにもスッキリしないプロットでした。

大きなテーマとして、文学ひいては芸術と、経済的論理との溝を描きたかっただろう点も、文学作品からの引用を当て込むだけのチープな仕上がりになっていて、 訴えかけてくるものは少ない。

残念。
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