去年くらいまで「邦画はほぼ全部同じ映画に見える症候群」だったはずなのに、静かで染み渡るみたいな作品がすっかり大好きになっていることに、自分でも驚く。
いいじゃない。観終わった後初めに思い出すのがスリリングな展開のことではなく、静かな中で強く発せられた言葉と、漂うような風景のことだったとしても。
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都会で流れるように暮らす人のことと、その人たちを取り囲む街のことを映し出しているから好きだ。引きの構図がたくさん使われていることもあり、出てくる人の感情がひしめくように伝わるわけではない。エモーショナルに何かをガツンと伝えてくれるということでもない。眺めるように観ていられるというその感じが、むしろ安心感を与えてくれる。
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右手で湯をすくうと、そのあたたかさが伝わる。差し込む光に照らされて、表面からふわんと浮かぶように湯気の流れが見える。澪のよこがお。
銭湯の番台で、コロッケを食べる澪が愛しい。仕事って、容れ物みたいなものに思えた。できることをやること、だから。小さなことでいいんだ。
“形あるものはいつか廃れていく。けれど、言葉は、必要な時に自分に向かってくる”。自分の心を通ったものは、形が見えなかったとしても、決して消えたりしないんだと思った。
翔べない時代のあなただとしても、愛おしく思うよ。「わたしは光をにぎっている」。