サークやファスビンダーばりに鏡や窓を積極的に用いる佐藤寿保。明らかに予算も撮影日数も足りないが、それでも五代響子の文学的なセリフと佐藤寿保のありふれた日常を歪なニューワールドへと塗り替えてしまう卓越した映画センスで、どうにかこうにかしてしまうのだから、表現とは結局のところ作り手の野心と才能。
生と死と現実とお芝居。リアルと虚構の境界線でふらふらしている話でもあって、端から狂っている女性の妄想に付き合わされた男たちが欲望を代償にして喰われていく。マゾヒストな女性の裸体を縛る縄が、獲物を引っかける蜘蛛の巣にさえ見えてくる。
新宿の街から聞こえてくるはずのノイズが鳴らないのは、高層ホテルの上階から見えている景色だからであって、その密閉された一部屋こそが佐藤寿保映画の世界であり、描かれる孤独を更に高めているのだと、ポルノ映画館でひとり真剣に見ている俺の周りを忙しなく動き回る小太りなオッサンにも伝えてあげたかった。