CHEBUNBUN

パラサイト 半地下の家族のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

パラサイト 半地下の家族(2019年製作の映画)
5.0
【Vous n'avez encore rien vu(あなたはまだ何も見ていない)】
韓国映画初のパルムドールにして、韓国映画初のアカデミー賞国際映画賞(旧外国語映画賞)ノミネートに王手をかけたポン・ジュノ最新作。

ポン・ジュノはデビュー作の『吠える犬は噛まない』から始まり『母なる証明』、『グエルム』、アメリカ進出後に手がけた『スノー・ピアサー』、『オクジャ』と徹底して分断した社会を姿形変えて描いている。これは、韓国社会の猛烈競争社会、格差社会に対する問題提起であり、それは世界全体に通じるものがある。

さて、今回彼がキム・ギヨンの1960年の名作『下女』のエッセンスを下敷きに描いた格差社会へのメッセージは、紛れもなく集大成であり、異様に奥行きのある本作は2010年代に大きな大きなケバブナイフを突き立てた。

本作はフランスメディアのほとんどが星4/5以上をつけ、パルムドールを獲った。そう聞くとシネフィルが好きそうなお堅い映画、難解映画に見えるかもしれない。

これが、エンターテイメントに吹っ切れており、尚且つ劇中に隠された暗号が映画に観慣れたファンを刺激し幾らでも考察可能になっている。圧倒的バランス感覚に心がご機嫌になるのです。これは、ある意味2010年代カンヌ国際映画祭をも皮肉っている。2010年代は、貧困やジェンダー問題など絶望の淵に立たされたものを真面目に描いた作品ばかりがパルムドールを獲っている。面白さやアート性を無視した作品ばかりが評価されるのは映画祭としてどうなのか?そういった問題を皮肉っているように見える。本作はカンヌで勝てる映画という方程式に従い、異常なまでのコミカルさと不気味さで勝つことで、2010年代カンヌ国際映画祭の病魔を駆逐してみせたのだ。実に見事だ。

それでもって、肝心な中身はコロンブスの卵になっているから驚かされる。家侵略ものといえば、ジョゼフ・ロージーの『召使』に始まり『ファニー・ゲーム』、『歓待』、『ボーグマン』と散々作られている。しかし、侵略する側の視点はなかなか描かれない。それは、侵略する側を描いても対して怖くないからだ。

、、、これが、とてつもなく怖いのです。その恐怖を盛り上げる象徴こそが、《階段》、あるいは《段差》だ。本作で映し出される階段や段差は、どれも中途半端で気持ち悪さを感じます。その正体を探ると常に映し出される《死角》の存在に気付かされます。

ソン・ガンホ演じる侵略する側の家は、半地下にある。地上からはなかなか彼らを認識できないが、彼らからは全て見えているのです。また、大富豪の家の描写も「下からは見えるが、上からは見えない」という対比構図を執拗に魅せてくる。これは単に『下女』のオマージュではなく、本作のテーマを言い表しているのです。

それこそがポン・ジュノが口を酸っぱくして語る《格差による断絶》だ。富めるものからは、全く下界が見えない。下界に差別心なんか持たず、むしろ優しさを与えようにも彼らからは本の氷山の一角しか見えないのです。反対に、下界からは手に取るように上の世界が見え、上を目指してうじゃうじゃ蠢いているのだ。

ジョーダン・ピールはたまたま良き家庭に生まれたから幸せだが、その対岸を覗いてしまった恐怖を『アス』で描いた。それには然程ピンとこなかったのだが、本作は背筋が凍った。《侵略される側》だと。

『縮みゆく人間』が体格差で認識できない世界を風刺したが、本作は《階段》に物語らせる素晴らしい発明をしました。

これはアカデミー賞国際映画祭ノミネートしてほしい!いや、しなければアカデミー賞に失望する。今や世界全体で格差が広がり、個人主義と空間の断絶がまかり通っている時代に成り果てているからこそ観なくてはいけない作品であります。

日本公開は2020年1月

心して待たれよ!