タイレンジャー

パラサイト 半地下の家族のタイレンジャーのレビュー・感想・評価

パラサイト 半地下の家族(2019年製作の映画)
3.5
先に言いますが、本作は現代人が観ておくべき意義深い映画です。
そのテーマはズバリ、格差社会です。

いまの世界は近未来ディストピア映画にも匹敵するえげつな〜い格差社会ですよ。

国際貧困支援NGO、オックスファムの2016年の報告によると、世界のトップ62人の大富豪が全人類の下位半分、すなわち36億人と同額の資産を持っているのだそう。

その一方で、世界銀行で定めた国際貧困ラインである1日1.9ドル未満で生活している人が世界に7億人もいる。

いやいや、遠い海外の出来事と思わないでくださいよ。日本だって7人に1人の子どもが貧困だと言われています。これは住む国の水準よりずっと低い収入で生活せざるを得ない相対的貧困のことです。(日本財団の調査による)

極端なことを言えば、世界は『マッドマックス 怒りのデスロード』のイモータン・ジョーの王国のようになりつつあると言っても過言ではありませぬ。ボロ切れをまとったゾンビのような貧困層はただ空を見上げて、僅かな超富裕層がもたらす恵の水を待つしかなくなるのかもしれません。

さて、本作の舞台は日本を超えた格差社会、競争社会と言われる韓国。

仕事がねぇ!お金もねぇ!な貧困層の一家が主人公。その長男がめっちゃ高学歴と偽ってクレイジーリッチなご家庭で家庭教師として働きます。

せがれ、でかした!とばりに、妹も父も母もそのリッチ家庭の甘い蜜を吸うべくあの手この手で家に出入りするようになるという話です。

大学に行ってない兄ちゃんが超一流大学卒業なんて嘘、すぐバレるだろ。なんて思って観てたら…不思議なことに全然バレないんだな、これが。

富裕層の目が節穴すぎるのか、貧困一家はまんまと富裕層に寄生することに成功していきます。

富裕層、なんで気付かんのだろ?

そこに意味があるんですよ。
本作が描いているのは格差社会における、富裕層と貧困層の埋めがたい断絶だと思います。

つまり、富裕層は貧困層のことを1ミリも気にしてないし、その存在すら知らなかったりもする。

そんな富裕層の無関心が、貧困層の怒りを買うというパターンが端的に描かれています。

貧困層には分かるんですよ。政治家や大富豪が「貧困をなくそう」なんて言っていても彼らが貧困の実態を何も知らないことが。

韓国では文在寅大統領の主導による大幅な最低賃金引き上げが2年連続で行われました。
国民の生活向上のためとは言え、結果的に中小企業の経営を圧迫し、失業者が増えてしまったという本末転倒。

富裕層は貧困層のことなんてまるで分かっちゃあいないし、偽善も甚だしい。それでも貧困層は富裕層のおこぼれをもらって生きていくしかないという痛烈な皮肉が本作にはムンムンと立ち込めています。

さらに言うと「半地下の家族」が表すように、本作では家の構造そのものが格差社会を表す舞台装置になっています。まさに天国と地獄ほどの差があることを家ひとつで表現しているのも見逃せません。

韓国に限らず、資本主義の必然として年月を経るごとに広まる格差。この不条理に対して貧困層が憤りを覚えるメカニズムがエンタテインメントとして昇華されているのが本作ですね。

ただ、僕はどうしてもテーマやメッセージの方を読もうとしたせいか、エンタテインメントとしては思ったほど楽しめなかったです。

思ったほど笑えなかったし、思ったほどのカタルシスも無かったなぁ、と。

面白いかどうかよりも、僕にとっては「お勉強映画」でした。