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パラサイト 半地下の家族のmoshのレビュー・感想・評価

パラサイト 半地下の家族(2019年製作の映画)
4.8
フィルマークス試写会にて鑑賞。映画をあんまり観ない人には”ジョーカー”にとうがらしぶっかけて韓国ナイズした映画だよと言って勧めるつもり(色々な人に怒られそう)。

本編がいかにすばらしいものであったかをつらつらと述べる前にひとつだけ。先月の台風19号はあなたの生活にとって何だったのか、あるいは何でもなかったのか。ちょっと思い返してみてほしい。
多摩川の氾濫は映像とともに、わりと盛んに報じられていた。まず川沿いの低層住宅がことごとく濁流に浸かる。さらにそれが平らな地面を伝って、武蔵小杉のタワマン一帯にまで及んだという。あのあたりの住人に対して、極端に悪い言葉を使うと成金のような印象を持つ人が世間にはそれなりにいるらしい。住人をその方向であざ笑う風潮も、ネット上で数多く観測した。じゃあ田園調布はどうだった?武蔵小杉のタワマンの住民を新興富裕層だとすれば、田園調布というのは生まれながらの、生粋の金持ちの縄張りだ。周囲よりかなり海抜が高いので見晴らしがよく、台風の被害も周縁部を除けば軽微なものであったと記憶している。庭のオリーブの木が折れたとか立派な門がちょっと欠けたとかそういうことはあっても、少なくとも先述の二つのエリアに比べればましだっただろう。世帯の経済水準は居住区域にダイレクトに表れる。あさのあつこの有名な児童小説『NO.6』の冒頭、二人の少年が出会う重要なシーンでは(というか終始一貫して)そのあたりが緻密に描写されている。今読んでもそう思う。
話が逸れた。めちゃくちゃ雑に言うと金持ちほど安全で快適な高台に暮らしてるよね、という…

台風の話はこのへんにしておいて、以下本編に関して書いていく。ネタバレを避けるために要領を得ない表現になるけども、あるタイミングで帰路につく家族のシーンがある。これがかなり印象的だった。持つ者は上のほうで暮らす一方、持たざる者はさらに下へと潜るしかない。光にあふれた美しい暮らしとさして距離のないところに、最低限の陽光すら享受することの叶わない生活がある。生乾きの臭いが画面越しに伝わってくるような気さえした。この差は自己責任なのか。それでいいのか。

延々と陰鬱な空気が続く作品なのかというとそんなことはない。白かったり黒かったりするユーモアがたっぷり盛り込まれている。某将軍様由来の笑いどころはシンプルに爆笑した。政権に不都合な文化人のブラックリストにぶち込まれた経験がある監督にもはや怖いものはないのかもしれない。というかむしろ韓国人の間では意外に定番のギャグと化していたりするのだろうか。

“就職先”のパク社長一家は基本的にいい人たちだ。社長と夫人は立ち居振る舞いがスマートで教育熱心(を若干こじらせて親バカの域)だし、子どもたちも素直ですれたところがない(し頭も良くない)。金持ち喧嘩せずを体現したような余裕があって金払いもいい。だからこそ、すぐそばにある、息の詰まるような生活とのすさまじい格差に想いを馳せることも勿論ない。中盤以降は特に、一家の傲慢さを時間をかけて自然に描いている。「あ〜この人たちはこういうこと言っちゃうよな」と納得する言動がたくさん出てくる。やり取りがいちいちコミカルかつしっかり残酷でいい。特に後半。
そういう積み重ねがあって、持たざる者サイドにとって軽んじられた!と感じる決定的な瞬間というか”限界”が来てしまったときのことを考えると、まあそれは恐ろしいだろう。ネタバレに気をつけて書くとこれくらいしか言えない。要するにとても面白いので観たほうがいい。早く年が明けてほしい。

資本主義社会で持つ者と持たざる者が出てくるのはしょうがないことなのかもしれない。じゃあそんな世界で一番強いのは誰だろうと考えてみたとき、実はそれは”何も持っていない人”なんだろうな、みたいなことを考えたりもした。
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