このレビューはネタバレを含みます
黒澤明の「天国と地獄」を思い出した。でももっと未来に向けて祈らせるような。
高台に暮らす裕福な家族と、下町も下町、その最下層で暮らす人々。
前半はテンポよく楽しいけれど、元家政婦の女性が訪ねてきたときからスリリングに。
息を詰めてテーブルの下に隠れる中で静かに、ふつふつとパク社長一家に対する思いが溜まっていく描写がうまいなと思った。
そして大雨の夜。下町で起きた洪水。
2019年の日本が台風で水害に見舞われたとき、「下町」とか「山の手の家」とかいう言葉が持つ意味を痛感した。そしてそのことをまた再認識した。
地下室でグルグル巻きにされた男性が、死にゆく妻のために必死にSOSを出す姿に胸が締め付けられた。地上に伝わるかもしれない、伝わるはず、と信じて出したSOS。でも届かなかった。地上の人々には理解されなかった、あるいは理解された上で、無視された。
やるせない。苦しい。洪水を引き起こした大雨の激しさが、苦しみや痛みそのもののよう。
お金はアイロンだ。札束が歪みや皺をピシッと伸ばすんだ。貧すれば鈍する……