小松屋たから

パラサイト 半地下の家族の小松屋たからのレビュー・感想・評価

パラサイト 半地下の家族(2019年製作の映画)
4.3
計算しつくされた精緻で美しい構図。「半地下」と「高台」の比較だけでは終わらない重層的な作品構造。ジャンル分けは考えていないという気構え。だから観ていない人にどのように勧めたら良いのかどうか全然わからない。ただ、決して説教臭くは無いから「社会派」とも安易には言い辛い気がする。強いていうなら、エンターテインメントアートとでもいうべきだろうか。

「クリーピー」を思い出させるリアリティからの飛躍を受け容れられるかどうかで評価が別れそうだが、あの仕掛けが韓国のみならず、あらゆる国、社会の暗喩だと思えば、今の時代に存在するべき映画なのだろうと思った。多くの人が自分は善人だと思っているが、誰かを知らず知らずのうちにどこかに閉じ込めてしまっているのかもしれない。そんな無意識の悪意をスクリーンからは伝わらない「臭い」に集約して観客の想像力を広げる工夫が巧みだ。

とても初犯とは思えない手際の良さで「パラサイト」していく家族たちの様子は、世界中で物凄いスピードで不寛容や格差拡大が進んでいることへの監督や製作陣の危機感の表れだろうか。ただし、この家族たちは自他に対する愛情を持っているので、そこに最後の救いを求めているとも言えそうだ。

個人的な嗜好としては、暴力描写が少ない方がもっと胸に沁みたと思うが、これは考え方や国民性の違いなのかもしれない。

本来、人間の価値に生物学的な差は無いはずなのに、社会構造次第で境界線が決められていってしまう。でも、一度、ルールを踏み外した人でも生きていていいはずだ、という強烈な人間肯定の物語と自分は受け止めた。