TOSHI

パラサイト 半地下の家族のTOSHIのレビュー・感想・評価

パラサイト 半地下の家族(2019年製作の映画)
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早くも、今年のベストワンが決まったかも知れない。平日の昼間に観たが、満席だった。個人的には韓国映画で、直近の上映で観る事ができず、次の回で観る事を強いられたのは初めてだ。一連の政治的な問題で、日本人の韓国に対する感情はかなり悪いと思うが、そんな事には全く関係なく、独自の魅力を放つ映画は、集客するのである。

冒頭の、半地下から眺める小汚い街の一角。酔っ払いが小便をし、噴霧された消毒剤は、家の中に入ってくる。上の階の住人のWi-Fiを盗むために、部屋の中をあちこち移動する様が見苦しい。住んでいる一家が、社会の底辺に生きている事が、如実に分かる。
父親のギテク(ソン・ガンホ)と妻のチョンソク(チャン・ヘジン)、長男のギウ(チェ・ウシク)、長女のギジョン(パク・ソダム)は全員が失業中だ。大学入試に失敗し続けていたギウは、一流大に通う友人が留学する間の家庭教師を頼まれる。それは、IT企業の社長であるパク(イ・ソンギュン)の娘ダヘ(チョン・ジソ)を教える仕事だった。受験に慣れているギウは、ダヘの母親であるヨンギョ(チョ・ヨジン)の信頼を得て、採用される。そして、ヨンギョが息子・ダソン(チョン・ヒョンジュン)の美術の先生を探していると知ると、美大を落ちていたギジョンをカリスマ教師と偽り送り込む。更には、ギテクも運転手として、チョンソクも家政婦として、パク一家に入り込むが…。

ポン・ジュノ監督に垣間見える、格差社会の構図が、非常に分かりやすい形で現れているが、同時に“貧乏人が金持ちにパラサイトするためのミッション・インポッシブル”という、かつてないようなコンセプトである事が分かる。そのミッション・インポッシブルな部分も、かなり面白いが、パクの邸宅に隠された秘密が明らかになる、後半の展開が驚愕である。一体、何を見せられているのか分からなくなるが、偽の身分を死守するための、ギテクの家族の死闘に圧倒される。そして終盤のギテクの行動と結末に、唖然とさせられる。

映画が終わり、咀嚼しきれない中で、これが現代に作られるべき映画なのだという確信が強まって行くのを感じた。経済的格差が広がるばかりで、大多数の負け組には展望が描けない現代社会。そこで負け組が、なりふり構わず突破口を探す姿こそ、映画が描くべき物なのだ。金持ちから搾取するという、ユニークかつ痛快な手段を据える事で、サスペンスとパワフルな映像を生み出し、それを社会批判とエンターテインメントの両面に昇華させた、凄い作品だ。

カンヌ映画祭で、「万引き家族」に続いて、本作がパルムドールを受賞したが、高級リゾート地に華やかなスターが集まる中で、貧しい人を描いた作品に最高賞が授与されるのは、ハイソサエティーな人達の免罪符のようで、欺瞞を感じるが、本作はハイソな人達に、“理解を示される”ような作品ではない。金持ちと貧乏人、持てる者と持たざる者が分かり合う事は無い事実を突き付け、持たざる者を気遣っているようで、本当は理解できない持てる者を、嘲笑っているのだ。
境遇が違う者同士の融和を描くのではなく断絶を、言葉では説明し切れないような展開・映像で描き切り、観客を圧倒する事。それが映画がやるべき事であり、笑われている側の持てる者も称賛し、持たざる者について本当に考えざるをえなくなるのだ。
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