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パラサイト 半地下の家族のKKMXのレビュー・感想・評価

パラサイト 半地下の家族(2019年製作の映画)
4.3
半地下に住む貧乏で狡猾な家族が、どことなく心がバラバラな金持ち家族の中に侵入していくという結構などエンタメながらも、喧伝されている通り社会批判の姿勢も感じ取れる、濃ゆいガーエーでした。
個人的にエンタメ映画は好まないのですが、家族関係および社会構造による断絶の描き方が秀逸で、実に楽しめました。


印象に残ったのは、金持ち家族の上っ面感・虚無感です。幸せヅラしてますがその実はバラバラ。団欒シーンもないですし。これが詳細に描かれていることが本作の大きな個性だと感じています。

美人セレブ妻は何をするにもビニール手袋をするという潔癖症で、子どもたちについている家庭教師の授業も同席しないと落ち着かないというコントロールに囚われた哀れな人物です。「夫に八つ裂きにされる!」みたいに怯えるシーンもあり、夫に精神を支配されていることが伝わります。経済的に依存せざるを得ないから、不健全な関係性になるんでしょうね。
金持ち夫は温厚そうですが、どこか人を見下している雰囲気があります。妻を愛しているか、と問われたシーンで、答えるまですごい間が空きます。そこから微妙な関係性が伝わりました。ただ、息子にとって良き父親ではありました。本来、愛が薄い人ではなさそうです。一方で息子以外にそれが向けられているのかは疑問であり、無意識的に男尊女卑がありそうな人です。
長女は弟と仲が悪く、居場所がなさそう。前の家庭教師にも、今回の家庭教師にも簡単に恋するので(つまり誰でもよい)、超孤独なのでしょう。
小さい弟は多動でトラウマがあるとのことですが、彼の真のトラウマは家族関係でしょう。温もりのない家庭では、その病理が家族の中で一番弱い人に現れるといいいます。弟はまさに家族の犠牲者って印象を受けます。

そして、家族(夫婦)の価値観に通底しているのがドライな合理性。人と人とのつながりを軽視し、古くから勤める使用人も、疑惑が生まれたら話し合いもせずに解雇します。これは人を代替品として見ていることを示しているように感じます。また、弟のバースデーキャンプに行き渋る長女に対して妻が「行かないと損するよ!」と叱る場面もあり、損得を基準とする価値観が日常化していることが判ります。
そして、人とのつながりを軽視することは、他者への想像力を奪い、無意識のうちに他者の尊厳を傷つけやすくなるように思います。上から下への尊厳蹂躙は昨今の映画のトレンドで、『ジョーカー』もそうでした。本作も、尊厳を傷つけることにより、大きな悲劇が生まれます。特に本作最大の山場は、実に些細な態度で差別意識が顕在化し、そして…というものでした。

この金持ち家族を見ていると、タルコフスキーの危惧が現実化していることが判ります。健全な物質人たちにより、世界が蹂躙されているのです。
現在の健全な物質人に通底している価値観は損得勘定の合理性であり、その背景には新自由主義があると思います。自由競争の結果、合理性を追求した強者だけが勝ち続け、敗者は復活できない。
合理主義を内面化している本作の金持ち一家は現代資本主義の象徴だと思います。このような微妙な家族はどの階層にも存在しますが、本作の金持ち家族の場合、関係性の希薄さが合理主義の内面化と関連しているように描かれていると感じました。
経済的な勝利は得たが、はたしてつながりを軽視する生き方で幸福なのか?どうやら金持ち=幸福という方程式は当てはまらないように感じます。


一方で、半地下一家は団欒はあるし、互いに口は悪いが愛で繋がっていることが伝わります。しかもみんな超ハイスペック。しかし、それなのに全員無職という憂き目にあってますから、一度階層が固定化すると抜け出せないことが判ります。この新自由主義による階層の固定化で貧困に追いやられた層は、家族の繋がりや団欒なんかでなんとかできるレベルではない。それはケン・ローチの『家族を想うとき』が克明に描いています。
そして、濁流に押し流されるのは常に経済的敗者です。上に上がれないだけではなく、社会的・物理的にも下流へと流されていくのです。金持ち=幸福は当てはまらないのに、貧困=不幸という方程式は当てはまってしまう不条理。


本作では、社会・経済的な勝者と敗者がくっきりと描かれており、中盤までは敗者側のイリーガルなアップセット物語が面白おかしく描かれます。しかし、後半から終盤にかけてより複雑で悲劇的な色が濃くなります。結局、この価値観がまかり通る以上、実は勝者も虚ろであり、上下を固定化する世界こそが俯瞰的な視点で見ると負け組なのではないか、と感じさせられました。

ケン・ローチやダルデンヌ兄弟は抑圧される敗者視点の作品を送り出してますし、話題となった『ジョーカー』も敗者視点でした。本作の優れたところは、勝者も敗者であるという視点が描かれている点であり、それが本作をより魅力的な作品にしているように感じます。
イ・チャンドンの『バーニング』も同じような視点でしたので、格差先進国の韓国では、勝ち組も虚しいみたいな感覚をもしかするとキャッチしやすいのかもしれませんね。
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