晴れない空の降らない雨

パラサイト 半地下の家族の晴れない空の降らない雨のレビュー・感想・評価

パラサイト 半地下の家族(2019年製作の映画)
4.2
 格差をテーマにした映画が山ほど創られているなかで、本作はエンタメへの昇華という点できわめて洗練された傑作、ということになると思う。災害時に最下層が一番割を食うとか、下層は上と戦うより足の引っ張り合いに終始するとか、万国共通だと思うが、中盤の展開はそうした社会的現実のアレゴリーだろう。それでいて、そんなことを全く気にすることなく楽しめる。
 ただ、比喩として階段や地下室を用いること自体は誰でも思いつくアイディアで、それを視覚化する昇降の運動もいささか見え見えでつまらなかった。構図やカメラワークがカッチリなこともネガティブに作用し、長男の口から出る「象徴的」くらい安っぽく感じてしまった(そもそも、意図が明瞭な映像が、最近の自分の好みと合わないのかもしれない)。
 それでも、貧困家庭と富裕家庭それぞれの生活の細部や、肌感覚レベルの違いなどの提示は的確かつ自然で無駄がない。究極的には、生理的なレベルで表現されてしまうのも絶望感あって、トドメとして最強のチョイス。最終的にそれが唐突なソン・ガンホの行動につながるのも、人物描写の蓄積もあってフィクションとしての説得力を感じさせる。映像はどこを取っても、審美的なものからサスペンスフルなものまで完璧に設計されており、海外で変な作品(嫌いではないが……)を撮っていたせいで忘れていたが、監督がもはや巨匠の域にあることを感じさせた。
 最後はしっとりしすぎか。でも、申し訳ない気持ちで一杯になって悔恨の慟哭とか、そういうダメな日本映画のようなシーンがなくて本当によかった。彼らにも罪悪感や同情心はあるけど、根はどこまでも自分本位なところが、よく描けていて納得できる。まぁ非常によくできた映画ではあるが、『殺人の追憶』や『母なる証明』みたく心に深くとげを突き刺していくものではなかった。(キム・ギドクでいえば、『サマリア』『うつせみ』に対する『嘆きのピエタ』みたいな位置づけ?)