はる

パラサイト 半地下の家族のはるのレビュー・感想・評価

パラサイト 半地下の家族(2019年製作の映画)
4.8
笑えそうなところが笑えない。そこに皮肉があるから。
逆にそこで笑ってる輩は、コッチが笑えるところで笑わない。
本当に色んな見方ができる作品だと思うし、わかりやすさもありながら、いくつもの違和感は隠喩となって奥行きを与えている。とりあえず公開直後にまず観て、その後あまり間をおかずに二回目の鑑賞となった。それからしばらく経っているが、感じたことや反芻して考えたことなどを。

さてネタバレ。
今作はこのタイミングでの公開ということで、観ているとここ1年くらいのいくつかの佳作、傑作のことを思い返すことになる。『天気の子』『アス』『ジョーカー』という昨年の重要な作品と重なる要素が入っていて、そこは「ああ、またなのか」ということで新鮮さという面では損なわれてしまったとは思う。しかし、同時期に製作された作品群の要素がそれぞれ(偶然)入っていて、なおかつこの上質さ、面白さが1本にまとめられてという事実にも驚く。
また観ていて気になっていたが、あの邸宅も半地下の部屋も、あの冠水する通りもセットということだ。半地下の方はそうだろうと思っていたけど、あの邸宅のセットはどうなっているのか詳しく知りたいところ。地下シェルターはもちろん別のセットとして、どうやら2階部分も別らしい。半地下のセットでは「匂い」にもこだわっていたというから凄い。

冒頭の振る舞いからあまり聡明さを感じさせないギウとギジョン兄妹が、実はそれなりに教養もスキルも、容姿の良ささえあったりするところからは、彼らが進学できないのは能力よりも経済的な問題なのだろうと感じる。また、ギウのひ弱さ、非力さには成長期の貧困が影響してそうで、あの事件の際には教え子の女子高校生がおぶさることができるほど華奢なのだ。
チュンスクの「ハンマー投げのメダリスト」という設定も面白い。そういう「若い頃のスポーツ面での功績がありながら今では」という構図は同じ韓国映画の『エクストリーム・ジョブ』でも見られたものだ。またギテクが失敗した「台湾カステラ」は数年前に韓国で大ブームになったというが、あるTV番組でレシピにケチをつけられて一気に人気が落ちたということだ。これは『エクストリーム・ジョブ』で同様の構図があり、あれはその台湾カステラの一件を下敷きにしていたのでは。

その台湾カステラ騒動で地下のオジさんも借金を背負った。地下のオジさんことグンセは妻を失った後で真っ先にギジョンを狙う。半狂乱でありながらも迷いなく、背後から。顔は見えていないのに確信を持っているというのがいかにも「悪い」。なぜかというとオジさんはいわば「同類」をすぐに見つけたということだから。あのときのギジョンは、避難所で配られていた服の中から少しでも見栄えの良いワンピースを選んで着ていて、それなりに整っていたように見えていた。それでもグンセには一目でわかるほどに周りから浮いていたということなのだ。弟が言うように一段上にいるはずの彼女だが、それでも、というところが本当に「悪い」んだよね。

さらに、オジさんはまずギウを殺そうとして、次がギジョンということでキム家から子供を奪おうとしている。それが復讐として最もダメージを与えるものだとわかっていたからだろう。体力的に勝てる相手を選んだという側面もある。
またあのシーンであらためてハッキリするのは、奪い合いをするのは貧困層同士だという構図。悪い。
「悪さ」がこの作品にはそこかしこにあって、あの豪雨からの晴天、そしてあの美しい庭で一気に集約されていくという、この作劇の秀逸さ。
だからギテクがパク社長を刺すという展開が意外じゃない。まあその手前でスローモーションなどくどいくらいにタメているというのもあるが、あの顛末が「そうなるよな‥」と思わせるのは、この作品が悪いジョークの中で丁寧に心の動きを描いているから。
怖い作品でありながらエンターテイメントとしても極めて優れていると思う。

今作がアカデミー賞で外国語映画として、アジア映画としてどれだけの成果を上げるのか、それとも。とても楽しみだ。
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