ぐりこ

パラサイト 半地下の家族のぐりこのレビュー・感想・評価

パラサイト 半地下の家族(2019年製作の映画)
4.1
お隣韓国からやってきた社会派ブラックコメディ、うまく表現できないのだけど、とってもおもしろかった。おもしろかったといってもコメディとしてというより、うすら恐ろしい部分を楽しめたといった感じ。


これは、半地下に暮らす貧困家族が、金持ち一家に寄生していくお話。そこで描かれるのは、韓国の強烈な格差社会。

父親のギテク(ソン・ガンホ)と妻のチョンソク(チャン・ヘジン)、長男のギウ(チェ・ウシク)、長女のギジョン(パク・ソダム)は全員が失業中でその日暮らしをしている。長男ギウはひょんなことからIT企業の社長パク氏(イ・ソンギュン)の家へ、有名大学の学生と身分を偽って家庭教師として入りこむ。さらに絵の家庭教師を探していることを知ったギウは、妹のギジョンをカリスマ教師を偽って迎え入れ、更に彼らは運転士を陥れて父ギテクを、家政婦も陥れて母チョンソクを加えて、半地下の家族は金持ち一家に寄生することに成功する。
こうして始まった寄生生活を守るために家族が奮闘する様は、なかなかスリリングかつコミカルだ。しかし、軽妙なおもしろさは前半でおしまい。

後半の展開はまさに衝撃的だった。
隠された地下室、そこに匿われていた前家政婦の夫、乱闘。前家政婦の夫が意を決して地下室から地上にのぼってきたとき、セレブのパーティは一瞬にして狂気の殺人現場に変わり、そしてギテクが最後にとった行動には唖然とする他なかった。


さて、この作品をつらぬくいくつかのテーマがある。
一つは格差社会。韓国の学歴社会は強烈で受験の成否で人生が決まるということはよく聞くが、どうやら予備校や家庭教師のコストなどから、格差を乗り越える逆転はなかなか起こらないようだ。上流階級は貧乏人を歯牙にもかけず平気で臭いと言い、貧乏人は上流階級の暮らしを妬みと恨みでもって見上げている。
作中ではその上下関係が象徴的に描かれていて、半地下の家族がパク氏宅へいく際は坂を上るし帰るときには長い階段を下って半地下へもぐり、なんならWi-Fiを探すにも上を見上げている。その一方で、パク氏やその妻は、自宅の隠された地下室にもテーブルの下に隠れた半地下の家族にも気づくことはない。ただなんとなく臭いなぁと思うだけだ。

もう一つは繰り返し使われる『計画』という言葉。強烈な学歴社会の韓国では、幼いころから『計画』しなくてはならないが、往々にして『計画』通りにはいかない。ギテクが作中で「『計画』なんてしなければがっかりすることもない」と言うが、これは『計画』の履行に失敗し続けた結果の諦念だ。何ももたらされない。
結局、作中の人々は『計画』から逃れることはできない。
最後のシーン、ギウは "成功して金持ちになり例の家を買い取って、殺人を犯し地下室に逃げ込んだ父ギテクを救い出す" という『計画』を立てるが・・・果たして実現するだろうか(しないのだろうなぁ)


そうか、上流階級のパク氏の見下した態度、半地下の臭い、うまくいかない『計画』、、、これらがギテクの頭の中で長い時間かけて溶け混ざり凝縮されて、噴出したのがあの衝撃行動だったのかもしれない。
(整理して書いててわかってきた)


ボン・ジュノ監督は、韓国社会の闇をブラックユーモアたっぷりに描いて見せた。ぞっとするおもしろさを持つこの作品は、カンヌのパルム・ドールに加えてオスカーでも作品賞を獲得した。決して超えられない格差を前に半地下の家族がもがく様を描いたこの作品が、セレブたちが集まるパーティーで祝福されるという滑稽さまで含めて、ボン・ジュノ監督の作品のように思えてしまう。


【雑感】
・おかんチョンソクの親北ギャグがおもろ(北朝鮮の例の女性キャスターの真似)
・イスンシンと日本軍がナチュラルに出てくる(日本をバッシングする意図もなく)
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