エクストリームマン

パラサイト 半地下の家族のエクストリームマンのレビュー・感想・評価

パラサイト 半地下の家族(2019年製作の映画)
4.3
Respect!

ポン・ジュノ新作!

※一部ネタバレしてます。

全く職には恵まれないが、各々職能技能知略に長けたキム家の人々が、高台の豪邸に住まうパク家に次々潜入していく「乗っ取り」系ブラック・コメディ映画。かと思いきや…みたいな。

何かドス黒い悪意や欲望によって事が動き出すのではなく、また入り込む側:キム家も入り込まれる側:パク家もそれぞれ基本的に善良な人々であることが寧ろ事態をあらぬ方向へと転がしていく The ポン・ジュノ映画。観客のもつ文脈によって各場面の情感が変わりそうだが、結末は(意図的にだろう)特定のベクトルを持ち、強力に閉じている。あの家での出来事全体が白昼夢のようでありつつ、「臭い」に代表されるディティールが生々しい手触りを与えていた。

固定化した経済格差や社会構造を抉る”社会派”な作品として観ることもできる(というかそのものズバリである)が、やはりコメディでありエンターテインメントの方に常に軸足を置いている姿勢にこそ好感が持てる。異常にテンポよく「入り込んで」行く場面がとにかく楽しい。きっちりとコメディに軸足を置いているからこそ、”先客”たちの言動行動も、切実な背景や動機があるとはいえ、どこまでもコミカル。だからこそ、同じ場面と地続きで悲壮や恐怖の演出がシームレスに接続されてくるとよりぎょっとできるし、役者の挙動やちょっとした演出にも鑑賞者は鋭敏になっていく。

低地&半地下のパク家と高台のキム家邸宅、そして両家をつなぐ例の坂が出てくる場面の殆どだが、その外に世界が確かに存在すると感じ取れるし、同時にまさにあの両家と坂が世界の全てだという感覚も覚える。土砂降りの中を家に戻る途中の坂のロケーションの素晴らしさたるや。劇中何度目かのギウ(チェ・ウシク)の悟りの場面としての説得力、絵力ともに申し分ない。掬い上げるノアも掬い上げられるべき「選ばれた動物たち」もただ一人・一匹も存在しないどん底の洪水と、それでも愛しい半地下の我が家の惨状を見遣るギテク(ソン・ガンホ)の表情が忘れられない。

面白い映画には共通することだけど、やっぱ登場人物が皆イイ。ギテクを演じるソン・ガンホが最高なのはもちろんのこと、妻チュンスク役チャン・ヘンジも負けてない。ハンマー投げのとこベタだけど笑う。あそこだけ急に夢みたいにファンタジー度高くなるし、夢みたいに晴れてた。チェ・ウシクが醸し出すギウの空気感も面白い。ギジョン役パク・ソダム、カッコよくて最高。グレてそうだけど一番の常識人で家族想い、スキルも高いというチートキャラ。パク家の面々も最高で、父ドンイク役イ・ソンギュンの顔芸感好き。ギテクの「奥様を愛してますもんね」に対するあの顔のニュアンス。ヨンギョ役チョ・ヨジョンは石田ゆり子感あったな。劇中一番のイノセント(とそれ故の暴力性)を担っていて、浮いたあの雰囲気がよく合っていた。顔の強い家政婦ことムングァン演じたイ・ジョンウンもポン・ジュノ肝いりの配役だけあって素晴らしい。特に前半の気配の消し方に、映画見終わった後で感心した。

夢のような、夢でない現実の出来事にギウはいつか打ち勝つことができるのだろうか。プランはあるか?