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パラサイト 半地下の家族のrage30のネタバレレビュー・内容・結末

パラサイト 半地下の家族(2019年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

金持ち一家にパラサイトする貧乏一家の話。

序盤に描かれるのはキム一家の日常。
彼らの貧困を示す描写がありつつも、オフビートなホームコメディーとして描かれる。

そして、長男ギウがパク家の家庭教師になる事を発端に、キム家の人間が次々と侵入していく。
“仕事”というお宝を強奪する為に、各人がスキルとチームワークを駆使する姿は、あたかもケイパームービーを見ているかの様な爽快感すら感じられた。

この金持ち一家を乗っ取る話だけでも十分に面白いのだが、本作が白眉なのは、そこから更にツイストを加えてくる事だろう。
まさかの第3の家族の出現、貧乏一家よりも更に貧乏な一家の存在が、物語を更なる深淵へと導いていく。
キム一家が困惑するのと同様に、観客もまた物語の行方が分からなくなってしまうのだが、この不安と好奇心がない交ぜになった、一連のシークエンスは本作のハイライトと言っても良いのではないだろうか。

そこから映画は、「バレるか?バレないか?」といったサスペンス展開や、大雨で家が浸水するディザスター描写を描きつつ、遂には『ジョーカー』を思わす、持たざる者の狂気すらも描いてみせる。

そして、最後に用意されるは、逃亡した父親の意外な潜伏先。
あの地下室を再び利用し、モールス信号の伏線を回収するなど、あまりにも鮮やかな脚本には感心するばかりだった。

ポン・ジュノ監督と言えば、独創的なアイディアと多彩なストーリーテリングに特徴があると思うのだが、本作はそうした彼の作家性が最も洗練された形で表れた作品と言えるだろう。
それに加えて、格差社会という全世界共通のイシューを取り上げた事で、アカデミー賞を獲得する程の普遍性を獲得出来たものと思われる。

映画の終盤、頭を打ったギウが「笑ってばかりいたけど、笑えなかった」という台詞がある。
それはそのまま、この映画を見た観客の心理を突いた台詞ではないだろうか。
基本的にはコメディーとして作られ、ゲラゲラと笑って観ていられるが、ラストショットで我に返されてしまう。
そして、この映画を思い返した時に、笑いの裏に隠された絶望に気付かされる事だろう。

ただ、見誤っていけないのは、敵は決してパク一家ではないという事。
本当の敵は富者ではなく、格差を広げ、固定してしまう新自由主義的な社会システムにある。
それこそが、人間社会に寄生するパラサイトなのだ。

キム一家の最大の失敗は、敵の正体を見誤った事なのかもしれない。
ギジョンが言う様に地下室の夫婦と話し合い、共闘が出来ていれば、また違った結末を迎えられた可能性もあっただろう。

まずは敵の正体を知る事。
その為に本作が評価され、多くの人に観てもられる状況になった事は少なからず希望を感じられる。
本作を通して、多くの人が気付き、目覚め、考える事を願って止まない。
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